アステイオン

座談会

「日本には現場力がある」...多極化する世界の中で、日本が進むべき道とは?

2025年07月02日(水)11時05分
池内 恵+廣瀬陽子+森 聡+北岡伸一(構成:石本凌也)

北岡 ありがとうございます。では、池内先生はいかがでしょうか。特に中東問題に対する日本の関与を、どのように見てらっしゃいますか。

池内 ガザ紛争が起こった当初から、中東で現在起きている地域大国中心の秩序に日本がどう働きかけるかが期待されていました。しかし、日本は完全に対応できませんでした。

2023年の11月4日の話ですが、アメリカのブリンケン国務長官がヨルダンを訪問した際、関係する主要なアラブ諸国(ヨルダン・エジプト・サウジアラビア・カタール・UAE)の外相がさっと集まり、PLO(パレスチナ解放機構)の事務局長も来て、ガザ紛争をめぐる多国間の外相会議が開かれました。

実は、ちょうど上川外務大臣もヨルダンを訪問していたのですが、米・アラブ諸国の会議に加わって議論をした形跡はありません。日・ヨルダンの二国間外相会談だけを行って帰ってきました。

G7の議長国という地位にありながら、米国とアラブ諸国の多国間の議論の場に加わる機会をわざわざ回避したわけです。これは積極性がなさすぎではないでしょうか。

北岡 全くおっしゃる通りだと思います。これは他にも外交組織上の問題もあるのでしょうか。

池内 中東に関していうと、東南アジアや欧州に対する外交とは異なり、そもそも地域政策を行う組織的な主体が備わっていない、あるいはそれを備える政治的な力が十分に働いていないと思います。

中東の場合、GCC(湾岸協力会議)やアラブ連盟などがあるにしても、地域秩序を主導する地域機構の制度が明確には存在していない。制度ではなく、地域大国や小さくとも有力な国々の多国間のインフォーマルな地域秩序が生まれています。

シリアのような内戦を解決するときも、そのインフォーマルな大国・有力国中心の地域秩序の中で物事は進んでいくわけです。そこに日本の外交がうまく対処できていません。

日本は一対一の二国間関係の束を作ることでは頑張っていますが、国ではなく、地域としての中東とは付き合えていません。相手側は、二国間関係と同時に、常に中東内部の多国間関係に気を配っていて、その中でどれだけ自分たちの利益を得るのかを考えています。

それに対して、日本は二国間関係だけやります、という態度でいくと、相手側の外交的ニーズに合わないのです。

日本は、相手側に組織があると組織をつくりますが、相手側が組織化されていないと、日本側に組織をつくる名目が立たない、というドメスティックな問題があります。それによって、中東関係では大きなチャンスを逃していると思います。

例えば外務省の中に、中東一課、二課をまたがった中東地域政策課のようなものをつくると良いのですが......。

北岡 それは日本の外交上の大きな問題ですね。では、最後に森先生にお願いします。

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