つまり、私は私の意見を正しいと思っており、しかもこの主張で全人類を説得したいと思っている。『弱者男性1500万人時代』を書いたのは、この本が政府関係者の目に留まって弱者男性が救済されるべきだと心から信じているからだ。
最新刊の『えらくならずにお金がほしい』だって、読んだすべての人が仕事を楽しめる方になってほしいと願っているからだ。私は扇動屋で、だから本屋という公の場で「辻立ち」するつもりで語りかけているのだ。
こう考えると、私の方がよほど危険人物である。ひっそりと有料のnoteで意見を発信している方々の、なんと真摯なことか。スマホの画面を開くだけで過激な字面が脳になだれ込む現代において「知りたくない人が、知らないでいる権利」を守っているのは、明らかにnoterの方であろう。
だが、私はあなたを説得するほうを選ぶ。そのために肩書きが役に立つならば、いくらでも地位や名誉を得ようとするだろう。自分の組織について語れなくなったとしても、こうしてあなたに言葉が届く手段を選ぶ。
いま、純粋なジャーナリストは月額制のnoteに引きこもっている。「外の世界」は危険だ。お金になる依頼は少ないし、SNSで中傷される。であれば「この思いを、分かってくれる人だけに届けよう」と考えるのは自然なことであろう。
そして、危険地帯にまで足を踏み出すのが、私のように覚悟を決めた、危ない人間ばかりになるのも致し方のないことだ。
公の場で意見を表明する人間が過激発言を披露するのを見て、先輩方は「日本の言論は終わった」だとか「ジャーナリズムの死だ」と嘆くのかもしれない。
しかし、表で見られるのは「SNSでどんなに暴言をぶつけられようが、印税しか手に入らなかろうが構わない」と腹をくくってしまった人間の主張だけである。
真摯なジャーナリストはいま、会員制の課金システムに守られ、地位も権力も及ばない場所で、ひっそりと議論の花を咲かせている。
トイアンナ(Anna Toi)
1987年生まれ。慶應義塾大学卒業後、外資系企業にてマーケティングに携わり、フリーライターに転身。専門は就活対策、キャリア、婚活、マーケティングなど。著書に『改訂版確実内定』(KADOKAWA)、『モテたいわけではないのだが』(イースト・プレス)、『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)、『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)など多数。
『アステイオン102』
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
CEメディアハウス[刊]
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