最新記事
インド経済

それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意欲が乏しい3つの原因

IS INDIA REALLY THE NEXT CHINA?

2024年5月14日(火)15時30分
ジョシュ・フェルマン(元IMFインド事務所長)、アルビンド・スブラマニアン(元インド政府経済顧問)
膨大な人口を養うには製造業の振興が不可欠だ(写真は南部チェンナイにあるルノー日産の自動車工場) DHIRAJ SINGHーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

膨大な人口を養うには製造業の振興が不可欠だ(写真は南部チェンナイにあるルノー日産の自動車工場) DHIRAJ SINGHーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<大企業優遇、根強い保護主義、政治の不安定......だからインドは製造業大国・輸出大国になり切れない>

果たしてインドは「次なる中国」になれるのだろうか?

中国経済の失速を尻目に、インド経済の将来については世界中で楽観論が広がっている。もはや一部民族主義者の妄想と片付けるわけにはいかない。今のインドは世界中で、大国の一員と見なされている。

この四半世紀を振り返れば、インドではインフラ整備の遅れが成長の足を引っ張ってきた。国内製造業のニーズを満たすに足りない状況で、外国企業の誘致もままならなかった。それでも2014年にナレンドラ・モディ率いるインド人民党(BJP)政権が発足して以来、デジタル面のインフラは見違えるほど充実した。今では庶民の多くが日々の買い物にオンライン決済を利用している。

こうした改善につながる政策の多くは前政権の時代に始まったものだが、モディ政権下で改革が加速されたのも事実。そうした努力が、いま実を結びつつある。

まず、技能サービスの輸出が勢いを取り戻した。この分野は21世紀初頭に最初の盛り上がりを見た後、08~09年の世界金融危機を経て足踏みが続いていたが、ここへきて復活の兆しがある。

インドの技術者といえば、以前は初歩的なプログラマーやコールセンターの要員がほとんどだった。しかし今は高度な技能を持つアナリストを輩出しており、多くのグローバル企業に重宝されている。例えば米金融大手のJPモルガン・チェースはインド国内で5万人以上を雇用している。ゴールドマン・サックスはインド南部バンガロールに、ニューヨーク本社に次ぐ規模のオフィスを構える。アマゾンやコンサルティング会社のアクセンチュアも同様だ。

国内で人口が最も多い(約2億4000万人)ウッタルプラデシュ州を見るといい。同州は開発が遅れていたが、今はインフラ整備と財政再建が進み、汚職や暴力も減っている。この調子でいけばもっと多くの外資を呼び込めるだろうし、そうなれば国全体の成長軌道も一段と上向く。

顕在化しない経済効果

それに、習近平(シー・チンピン)政権が3期目に入った中国では経済の減速が止まらない。その結果として資本の流出が顕著になっている。公式統計でも、家計を含めた民間部門の資金流出は690億ドルとされている。

このように、今のインドには好条件がそろっている。だが、まだ中国に取って代われる段階ではない。好ましい兆しは多々あるが、政策対応が不十分で、まだそれが経済データに反映されていないからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中