最新記事
アメリカ

現役兵39%減「新兵不足の危機」アメリカ軍が好景気とZ世代の影響で直面する新たな軍事課題

RECRUITMENT BLUES

2023年12月7日(木)17時29分
アレックス・フィリップス(本誌アメリカ政治担当)
国を守りたがらないアメリカ人たち

PHOTO ILLUSTRATION BY NEWSWEEK, SOURCE PHOTO BY OLLEGN/ISTOCK

<今年の新兵採用数は目標から数万人も不足、兵士集めに苦戦する原因は、若者の愛国心の低下?経済回復?必死のアピールに性的少数者のキャンペーンを展開するも...>

アメリカが大規模な戦争に突入した場合、軍務に就くことを希望しない──最近の世論調査でそう答えたアメリカの成人が、過半数に上った。

この調査結果は、米軍の全軍が新兵の採用目標数達成に苦戦するなかで出てきたもので、軍という職業に対する無関心の広がりを示している。

今年、陸軍と空軍は採用人数の目標をそれぞれ約1万人、海軍は約6000人下回っている。現役兵の数は1987年に比べて39%減った。

兵士不足は憂慮すべきことだと、専門家はみる。

国際情勢がますます不安定になるなかで、アメリカの指導者はいつ大規模な部隊を投入せざるを得ないか分からないからだ。

「いまイスラエル周辺には、(米軍の)空母打撃群や海兵遠征部隊が駐留している」と、米海兵隊の輸送オペレーターから軍の新兵募集担当となったジャスティン・ヘンダーソンは言う。

「わが国は今、2つの戦争を財政支援している。パレスチナ自治区ガザの戦闘をめぐっては実際に周辺に兵士を配備し、上空にはドローン(無人機)を飛ばしている。われわれは既にガザに関与しているのだが、その一方で中国と台湾をめぐる情勢には先が見えない。今は非常に混乱した時期だ。何が起こるか分からない」

新米国安全保障センターの上級研究員で、元海軍攻撃型潜水艦司令官のトーマス・シュガートは「新兵不足がどのくらい米軍の活動に影響を与えるかは、どのような人材を必要とし、それがどのくらい不足しているかによる」と、本誌に語った。

72%が「兵役に志願しない」

歩兵の新兵は数週間で訓練が可能だが、ほかの軍務はそうはいかない。

「仮に海軍が新兵募集の目標を長期間にわたって達成できない状況が続き、潜水艦の管理や航空機の操縦に必要な人材を確保できなかったとする。その状況で大規模な紛争に巻き込まれたら、人材の訓練には相当の時間がかかってしまう」と、ヘンダーソンは言う。

だが専門家によれば、兵士の採用問題にはさまざまな要因が複雑に絡み合っている。

新しい技術に熱中している若い世代を狙った採用キャンペーンが行われる一方、性的少数者を前面に出したPR戦略が新兵募集の妨げになっているという見方もある。

しかも今は経済環境が回復傾向にあり、軍のリクルートは厳しい状況にあると言える。

「軍が大多数の人々にとって生産的な職業選択であり続けるよう、積極的に努力していく」と、国防総省のニコール・シュウェグマン広報官は本誌に語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、支援的な金融政策に期待

ビジネス

EXCLUSIVE-米検察、テスラを詐欺の疑いで調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中