最新記事

サイエンス

「世界一鮮やかな色!?」......生物をヒントに塗料では不可能な鮮やかな色が開発された

2023年1月6日(金)18時35分
青葉やまと

生物を参考に動物学者が塗料を使わない発色を実現している...... KEW GARDENS-Naturally Brilliant Colour

<動物の羽をヒントに、塗料では不可能な鮮やかな色を開発した英科学者。「色は存在しない」と語る、その真意とは>

既存の塗料を一切使わずに、これまでに成し得なかった鮮やかな発色を実現する......。こんな取り組みがイギリスで進行している。主催者はもともと塗料の専門家ではなく、動物学者だ。

イギリスの動物学者であるアンドリュー・パーカー氏は、オックスフォード大学の動物学者であると同時に発明家としての顔を持つ。氏は20年以上をかけ、塗装ではない新たな発色手法を開発してきた。

従来の塗料は手軽に塗装できる反面、鮮やかさに限界があった。通常の顔料は可視光線のうち、特定の色彩以外の波長を吸収することで、吸収されなかった色に発色する。このとき、余分な波長は完全には吸収されず、ある程度拡散してしまう。どうしてもくすみが生じるため、彩度には限界があった。

そこでパーカー氏は、クジャクやハエの羽などの構造にヒントを得た。これらはメタリックで複雑な色彩にきらめくが、その秘密は「構造色」と呼ばれる発色のしくみにある。原子1個分の大きさにも近いナノスケールのレベルで複雑な構造となっており、入射した光を特定の波長に分解して反射する。結果、光沢感のある非常に鮮やかな色が表現される。

>>■■【画像】パーカー氏が参考にした鮮やかな貝、ハチドリ

大量生産への道を開いた「ピュア構造色」

パーカー氏は20年以上にわたり、ラボで構造色を研究してきた。だが、発色には成功していたものの、大量生産に課題があった。

米スミソニアン誌によると氏は当初、動物が持つナノ構造を機械で再現しようと試みていた。だが、シリコンから極小サイズを製造するのに1週間もかかることがわかり、商用化には課題が残った。これ以前には青く輝くモルフォ蝶の羽を培養してみたが、安定して再現することはできなかった。

ブレイクスルーとなったのが、氏が「ピュア構造色(Pure Structural Colour)」と命名した製造手法だ。ナノスケールの極薄シートに、ねじれた線のパターンを繰り返し刻み込む。このシートを何層にも重ねることで、動物の羽が持つ複雑な色味を安定して再現することに成功した。パターンのスケールを変更することで、任意の波長に発色できることも分かった。

こうして誕生したピュア構造色は、非常に鮮やかに発色する。スミソニアン誌によるとパーカー氏は、「世界で最も明るい色」だとも自信を示している。「光を100%反射します。これ以上明るくすることはできません」

氏は、「色は存在しない」と語っている。塗料のようにはっきりと見える色ではなく、透明な構造を重ね上げる構造色によってこそ、真に鮮やかな色が生まれると氏は考えている。

米クオーツ誌もこの取り組みを取り上げている。同誌は染料でなく構造によって発色するしくみに注目し、色褪せない「永遠の色」を実現できる可能性があると捉えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き 副議長ら2人が利

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効

ワールド

トランプ氏、ブラジルに40%追加関税 合計50%に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中