最新記事

ルポ

子供たちが狙い撃たれ、遺体は集団墓地に積みあがる...孤立都市マリウポリの惨状

Barbarity Laid Bare

2022年3月23日(水)17時20分
ジャック・ロシュ(ジャーナリスト)
マリウポリの住居ビル

炎上するマリウポリの住居ビル(3月14日) AZOV REGIMENT PRESS SERVICEーREUTERS

<家も病院も破壊され援助物資も届かない。行くも残るも死と隣り合わせの日々。孤立状態のウクライナの都市マリウポリ、現地の人々の叫びを聞け>

3月15日、ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリをロシア軍が爆撃。爆音が次第に迫ってくるなか、コンスタンティンは苦渋の選択を迫られていた。ロシア軍に包囲された街から既に何万もの人々が避難を始めており、コンスタンティンも車に家族や親戚を乗せられるだけ乗せて、街を脱出しようとしていた。ところが妻のアリオナが乗ろうとしない。

「全員が乗るのは無理だった」と彼らの娘で27歳のイリーナは語る。「爆発はすぐ近くで起きていた。父はみんなに伏せろと言った。父は車に乗ろうとしない母に腹を立てたけど、母は友人を置いてはいけないと言い張った」(安全上の理由から本人の希望で全て仮名)

結局、母親は友人とその娘と共にシェルターに避難し、父親はまず家族を避難させてから、3人を迎えに包囲された街に戻ることになった。いちかばちかの賭けだ。

シェルターで待つこと数時間、爆撃は依然続いていた。こうした無差別攻撃がどんな被害をもたらすか、アリオナの友人は数日前の爆撃で負傷して思い知らされていた。ようやくコンスタンティンが現れ、日産の小型車に3人を乗せて出発。数時間後、マリウポリから離れた小さな町で、全員が無事再会を果たした。

それでも安全には程遠い。燃料は不足。多くのガソリンスタンドが閉鎖し、売っている人を見掛けたがとんでもなく高額だった(日本円に換算すると1リットル=約1000円)。

この日、ロシア軍の侵攻以来最多と思われる約2万人がマリウポリを脱出した。ウクライナ当局によれば、4000台の車が同市を後にし、うち570台がその日のうちに南東部の都市ザポリージャに到着。残りは途中の町で一夜を過ごしたという。

「子供たち」と書かれた建物を爆撃

決死の脱出は、住宅街への容赦ない爆撃が数週間続き、赤十字国際委員会(ICRC)のいう「大惨事」に陥った末のことだった。急ごしらえの集団墓地にはロシア軍の爆撃で死んだ子供たちの遺体が積まれ、住宅や産科病院は空爆と砲弾で破壊された。ロシア軍が人道支援を阻止しているため、食料も水も医薬品も底を突きかけている。街に残った人々は雪を溶かして飲み、凍える寒さの中で家具を燃やして暖を取っている。

16日には市中心部の劇場が爆撃された。劇場には市民数百人以上が避難していたとされ、爆撃前の衛星写真を見ると、建物前後の地面にロシア語で「子供たち」と書かれているのが分かる。標的にするなとロシア軍に伝えるためだろう。死傷者の数は不明だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中