最新記事

ゲームチェンジャー

米コインベース上場、仮想通貨が金や為替と並ぶ主流資産に食い込む起爆剤となるか

2021年4月16日(金)19時33分
ジェンキンス沙智(在米ジャーナリスト)

そのため長年にわたり暗号資産の存在を「見て見ぬ振りをしていた」伝統的な投資家も、今後は想像以上に大きく成長し、制度化も進んでいる暗号資産を考慮に入れたポートフォリオ形成を余儀なくされるとし、これが資本市場における「ゲームチェンジャー」になると評した。

実際、今回コインベースについた高い評価額は、暗号資産市場が重要な分岐点に差し掛かっていることを投資家も認識している様子を裏付ける証拠と言えるかもしれない。

暗号資産をめぐっては、テスラが仮想通貨の代表格であるビットコインを今年大量に購入したうえ、電気自動車(EV)購入時の決済にビットコインを受け付けると発表したほか、クレジットカード大手ビザや決済大手ペイパルも暗号資産での支払い対応を決めるなど、これら通貨が実社会に確実に入り込みつつある印象を受ける。

暗号資産界のグーグルとなるか

著名投資家のロン・コンウェイ氏は、暗号資産とこれを取り巻く技術や企業を含む「クリプトエコノミー」が「次の数兆ドル規模のイノベーション機会」になるとの見方を示し、その中核に位置するコインベースを「クリプトエコノミーのグーグル」と呼んだ。

ただ、コインベースの上場が話題を集めたからと言って、同社や市場全体が前途洋々というわけではない。

何よりもまず、コインベースは成長モメンタムをめぐる不確実性が非常に高い。上場に先立ち同社が発表した1−3月期決算によると、最終利益はすでに黒字化を達成し、前年通期の2倍超に相当する7億3000万〜8億ドルに急増した。だがこの96%をトランザクション手数料で稼いでおり、その他事業はまだわずかにしか寄与していない。

つまり、価格変動を受けて取引が細れば、同社の収益も一気に縮小する恐れがあるということだ。足元では暗号資産の取引が極めて活発化しており、これが特にビットコインの価格に連動しやすいコインベースの収益を顕著に押し上げているものの、これら資産はいまだに投機色が強いためボラティリティが極めて大きい。

さらに、市場の拡大に伴い規制が厳格化されることも必至だ。コインベースの共同創業者兼CEOのブライアン・アームストロング氏は「暗号通貨事業に関して言えば、規制が(サイバーセキュリティと並ぶ)最大のリスクの1つだ」と語っている。

ビットコインなどは一般への認知が広がり、企業や金融機関もこの波に逆らわずにトレンドに乗ろうとしている。ただ、政策当局者の間では暗号資産に対する懐疑論が根強く残っているのも確かだ。FRBのパウエル議長は今週、こうした通貨について「投機手段に過ぎず、決済手段として積極的に用いられてはいない」との認識を示した。

コインベースは、自由かつ公平でオープンな金融システムを構築し、「世界の経済的自由度を高める」ことをミッションとして掲げている。暗号資産界のグーグルとして市場発展の中心的存在を担えるか、それともかつてのネットスケープやAOLのように一時期のブームを経て影を潜めるようになるかは、今後の同社の舵取り次第となろう。

sachi_headshot.jpegジェンキンス沙智
フリーランスジャーナリスト兼翻訳家。
テキサス大学オースティン校卒業後にロイター通信に入社し、東京支局で英文記者としてテクノロジー、通信、航空、食品、小売業界などを中心に企業ニュースを担当した。2010年に退職・渡米し、フリーランスに転向。これまでに、WSJ日本版コラム「ジェンキンス沙智の米国ワーキングマザー当世事情」を執筆したほか、週刊エコノミストやロイターなどの媒体に寄稿した。現在は執筆活動に加え、大手金融機関やメディアを顧客に金融・ビジネス・経済分野の翻訳サービスを提供している。JTFほんやく検定1級翻訳士(金融・証券)。米テキサス州オースティン近郊在住、愛知県出身。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中