最新記事

ロシア

ナワリヌイ釈放要求デモはロシアをどう変えたか

Alexei Navalny Inspires Big Anti-Putin Protests, but No Russian Spring—Yet

2021年1月26日(火)18時23分
デービッド・ブレナン

ナワリヌイの釈放を求めロシア全土で大規模なデモが展開された(1月23日、オムスク) REUTERS/Alexey Malgavko

<ロシア全土で展開された前例のない反政府デモは「ロシアの春」につながるのか>

ロシアでは1月23日、約100の都市や町で、反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイの暗殺未遂と身柄拘束に抗議する大規模なデモが行われた。国民がここまで反政府感情をむき出しにするのは、ロシアでは珍しい。

デモの参加者たちは凍てつく寒さや高圧的な機動隊、新型コロナウイルスの感染リスクもものともせず、政府に対する怒りの声をあげた。報道によれば、首都モスクワでは4万人が参加したほか、抗議はロシア全土に広がり、約3000人が警察に身柄を拘束された。

観測筋は、今回の抗議デモは「前例のない規模」だと指摘。英BBCは、首都モスクワでの抗議デモは過去10年で最大の規模だったと報じた。2020年8月に毒殺されかかったナワリヌイは、1月に療養先のドイツからロシアに帰国した直後に当局に身柄を拘束された。

ジョー・バイデン米大統領は、ナワリヌイと身柄を拘束されたデモ参加者を「無条件で釈放」するようロシアに呼びかけた。バイデンはロシアのウラジーミル・プーチンに対して、ドナルド・トランプ前米大統領よりも厳しい姿勢で臨むと予想されており、今回ロシア全土で発生した抗議デモはバイデン新政権にとって、発足早々に手にした広報戦略上の勝利だ。

ナワリヌイ派の賭けが成功

しかしプーチンにとって、抗議は珍しいものではない。ロシアを統治してきたこの20年、彼は数多くのスキャンダルを切り抜け、野党指導者や抗議デモをかわしてきた。プーチンに批判的な者たちは、今回の反政府デモがいわば「ロシアの春」につながると期待しているかもしれないが、差し当たってその気配はなさそうだ。

ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの教授でロシア政治の専門家であるマーク・ガレオッティは本誌に対し、「これはひとつのプロセスのはじまりに過ぎない」と語る。「今回の抗議デモでまず注目すべきは、参加者が少なければナワリヌイ派は致命的な打撃を受けていたと思われるのに、そうならなかったことだ」

「彼らは真冬、しかもパンデミックのさなかに、1週間前の通知で抗議デモへの参加を呼び掛けた。これは賭けだ」とガレオッティは言う。「それが実際に、ロシア全土で年齢もばらばらの多様な人々が参加する大規模なデモになったことには、重大な意味がある」

ガレオッティはさらに、「これは革命ではなく、プーチンの失脚につながる運動でもない」と指摘。「それでも、ロシア国民が抱えるさまざまな問題の解決には、ロシア政治に何らかの構造改革が必要だという主張に力を与えることはできた」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中