最新記事

東南アジア

インドネシア軍、パプア山間部で親子を殺害 武装組織メンバーと弁明するも真相は?

2020年7月23日(木)18時01分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシアの東端、ニューギニア島西半分を占めるパプア地方の山間部で7月18日、パプア人男性とその息子の2人がインドネシア陸軍兵士によって殺害される事件が起きた。写真はパプア地方に展開するインドネシア国軍 REUTERS/Antana Foto Agency

<ASEANでコロナ禍がもっとも深刻な国は、感染が切実な地方パプアにまた別の問題を抱えている>

インドネシアの東端、ニューギニア島西半分を占めるパプア地方の山間部で7月18日、パプア人男性とその息子の2人がインドネシア陸軍兵士によって殺害される事件が起きた。

現地からの情報が限られているため、これまでのところ実際に何が起きたのか詳細は不明で、目撃者情報と軍の発表では食い違いがあるのも事実だが、パプア州ンドゥガ県のケニャム付近で軍の検問所に近づいて来たパプア人男性2人に対し、警戒中の兵士が身柄を拘束して尋問を始めた後に発砲、2人が殺害されたという。

その後の調べで2人の男性は親子であり、軍側は2人が武器を所持して武装していたことや武装組織と関連があるとの情報を事前に得ていたとして、周辺地域で活動を続ける武装抵抗組織の関係者だったと強調していることがわかった。

検問所で暴力受け尋問、直後に銃声

事件は7月18日午後、パプア州中央山間部ンドゥガ県の県都ケニャムに通じる道路に軍が設置した検問所で発生。近づいたてきたパプア人の集団から2人の男性が引き止められ、軍による尋問や所持品検査が始まった。そして他の集団が検問所を通り過ぎた直後に銃声が聞こえたと目撃者などがメディアの取材に答えている。インドネシア主要紙「ジャカルタポスト」や「テンポ」などが伝えた。

その後軍が「ケニャムの検問所で男性2人を射殺した」と発表したことで尋問された2人が軍によって殺害されたことが確認された。

地元関係者によると射殺されたのはエリアス・カルング氏とスル・カルング氏で年齢は不詳ながらエリアス氏はスル氏の父親という親子だったという。

目撃者によると2人はこの日、他のパプア人数十人とともに、1年以上避難していた山間部のジャングルから町に下ってきたもので、スル氏が先頭を歩いてケニャム川に近い軍の検問所に向かったという。

その後スル氏だけが兵士に呼び止められて尋問が始まり、目撃者によると殴打されながらの尋問となり、見かねた父エリアス氏が息子を取り返すべく検問所に向かったという。

兵士らはスル氏が斧を所持していたため「武装していた」としているが、仲間によると「スル氏の斧はジャングル内で調理用のマキを調達したり、川を横断する際に橋となる木材を切り出しするため所持していただけだ」としており、人を殺傷するためではなかったと話している。

スル氏と父親を検問所に残して他の人びとは急いで通り過ぎて歩き始めたが、間もなく銃声が聞こえた、とメディアに対して証言している。このため、検問所で2人の親子が一方的に射殺された可能性が極めて高いとみられている。


【話題の記事】
・東京都、23日のコロナウイルス新規感染366人で過去最多に 緊急事態宣言解除後の感染者が累計の過半数超える
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・がんを発症の4年前に発見する血液検査
・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米北東部に寒波、国内線9000便超欠航・遅延 クリ

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中