最新記事

コロナ時代の個人情報

アメリカが接触追跡アプリの導入に足踏みする理由

PRIVACY VS. PUBLIC HEALTH

2020年6月22日(月)06時45分
デービッド・H・フリードマン(ジャーナリスト)

PM IMAGES-DIGITALVISION/GETTY IMAGES, DABOOST/ISTOCK

<新型コロナ対策の決め手とされる接触追跡。日本でも接触確認アプリ「COCOA」が公開されたが、プライバシーの権利を重んじるアメリカ人にはハードルが高い。何が問題なのか。効果はあるのか。本誌「コロナ時代の個人情報」特集より>

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう前ならば、こんな話は巨大ハイテク企業が全人類を支配する悪夢の未来社会、という恐怖のシナリオの一場面にしか見えなかったはずだ。

20200623issue_cover200.jpg4月10日のこと。宿敵同士の米グーグルとアップルが連名で、ウイルス感染のリスクを把握するためにスマートフォン(スマホ)の持ち主が誰と接触したかを自動的に追跡できる技術枠組みを提供すると発表した。

余計なお世話、と思われるだろうか? だが、現に世界の多くの国が似たような行動追跡システムを採用している。韓国ではアプリと監視カメラを併用し、発症以前の感染者と接触した人を追跡している。中国やシンガポール、オーストラリアもスマホベースの接触追跡システムを導入済みで、ヨーロッパの多くの国も追随する見込みだ。

アメリカでも経済活動の再開に向けた動きが始まっているが、新型コロナウイルスはまだ死滅していないし、再び感染が急拡大する可能性は十分にある。救急医療体制の崩壊という悪夢の再現を防ぐためにも、当局は感染拡大の芽を早いうちに摘む必要があり、そのために感染者の接触相手を徹底的に洗い出したい。1人でも新規の感染者が出たら、その人が発症以前に接触した可能性のある人たちをリストアップし、速やかに彼らに連絡し、自宅待機などの対応を求めなければならない。

こうした接触追跡は過去にも新たな感染症の発生時に行われている。いい例がエイズ(後天性免疫不全症候群)だ。あれは性行為による感染が多く、セックスの相手を聞き出すという難しさはあったが、相手の数は限られていた。しかし今回は不特定多数が相手だし、しかもアメリカの場合は、理髪店の閉鎖にも怒って街頭へ繰り出すような市民が相手だ。本気で接触先を追跡しようと思うなら10万人のプロを動員する必要があると、ジョンズ・ホプキンズ大学の専門家は試算している。

だからこそ、先端技術を利用して追跡調査を自動化しようという話になる。それをやって成功したのが韓国だ。6月中旬現在、韓国(人口約5100万)の感染者数は1万2000人に満たず、死亡者は270人強。死亡率はアメリカの約70分の1だ。既にアジアを中心に20以上の国がスマホを用いた接触追跡システムを採用し、一定の効果を上げている。だが技術大国のアメリカは後れを取っている。

【関連記事】新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

雇用市場減速しているがインフレ見通しは不透明=英中

ワールド

イラン最高指導者「米国が再び攻撃すれば反撃」、停戦

ビジネス

英シェル、BP買収報道を全面否定 英規則で今後6カ

ビジネス

中東紛争、金融市場は冷静に反応 成長に悪影響も=E
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 7
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 8
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 9
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 10
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中