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「恐怖の未来が見えた」NYの医師「医療崩壊」前夜を記す日記

Inside NYC Emergency Rooms

2020年4月6日(月)20時15分

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セントラルパークに野営病院が出現 JEFFERSON SIEGEL-REUTERS

■3月28日 キーン医師

症状の悪化で、また戻ってきた患者がいる。彼の姉は前日にCOVIDで死亡したという。呼吸の苦しそうな患者もいた。彼の息子もCOVIDにやられ、隣の病室で気管挿管を受けていた。

別の品のいい高齢男性は明らかにウイルス性肺炎の症状を呈していたが、息も切れ切れにこう言った。うちの息子はよく見舞いに来てくれるんだが、先週は軽いインフルエンザみたいだったな、と。

みんな同じような経過をたどる。最初は微熱と節々の痛み。それから咳がひどくなり、息が切れる。最後は呼吸困難で運び込まれる。

詰め所に向かう途中、同僚たちが患者の胸腔にチューブを挿管しているのを見た。またか。このところ同じ光景ばかり見ている。ボードに貼ってある患者リストにも既視感がある。みんな同じ呼吸困難の症状で、COVIDの疑いありとされている。

増え続ける患者に対応するため、病院の幹部はベストを尽くしている。既に「COVIDユニット」を拡張し、ベッド数も増やした。人工呼吸器は足りなかったが、やっと追加が届いた。一方、頑張った患者2人が回復し、人工呼吸器を必要としなくなった。

■3月28日 セリーノ医師

今朝は玄関のブザー音で目が覚めた。フェデックスの宅配便が届いたのだ。数日前、自分の使っている3MのPAPR(空気感染を防ぐために空気を浄化して送り込む呼吸用防護具)に付ける唯一のHEPAフィルターがリコールされたのを知った。大幅な便乗値上げに目をつぶり、2週間も待たされて買ったばかりなのに、もう使えない。しかも新しいフィルターの取り寄せは2カ月待ちだという。私はパニックになった。挿管などの処置の際に飛んでくるウイルスの量を考えると、正常なフィルターの有無は文字どおり生死の分かれ目だ。

メーカーに何度も電話し、ようやくつながった担当者に状況を説明した。約束はできないが何とかしてみると言われた。そして今朝、宅配便の箱を開くとフィルターが入っていた。ああ、天の助け。

その日はN95マスク40枚も届いたので、4つの病院にいる仲間に分けて配った。別の医療用具の寄付も届いた。あちこち電話して、お互い何が必要かを確かめ合った。

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医師たちは検査や治療に追われる日々 ANDREW KELLY-REUTERS

■3月29日 セリーノ医師

今日は非番だけれど、明日への準備で日が暮れた。忙しくしていれば、胃が痛いのも忘れる。別の州にいる感染症専門医に電話して治療薬の開発状況を聞き、こっちの現場では何が効き、何が効かないかを伝えた。こういう情報交換が、まだ爆発的感染に至っていない地域の人たちの役に立つ。そして、みんな仲間なんだと感じられる。

COVID-19の症状は、知れば知るほど奇怪に思えてくる。味覚や嗅覚がなくなるとか、心筋症になるとか。もしかして、免疫系の暴走で健康な細胞まで攻撃される「サイトカインストーム」が起きているのではないか?

そして治療薬の臨床試験はどうなっているのか? 今ある薬が効かないのはなぜ? いったいどんな薬なら効くというのか?

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