最新記事

世界経済

2020年の世界経済が抱える4つの時限爆弾

A Rosy Outlook, But With Big Downside Risks

2020年1月7日(火)18時00分
キース・ジョンソン

世界銀行によると世界中の債務残高は2018年に対GDP比230%という過去最高の水準に達し、その後も増え続けている。特に新興国・途上国は計50兆ドル以上の債務残高を抱え、景気減速や貿易戦争に起因する金融市場の調整から打撃を受けやすい。

途上国諸国は1980年代、1990年代、2000年代と、既に3回の債務危機に見舞われ、そのたびに痛い思いを味わった。世銀は恐るべき4回目の到来の可能性ありとし、「規模、速度、債務残高の範囲においてより一層困難な第4波」が新興市場を襲うと警鐘を鳴らした。

これほど債務残高が大きいため、金融市場で何らかの調整が生じるとその影響は瞬く間に広がる。貿易戦争のほか、企業の破綻や債務不履行も市場の調整の引き金になる。世銀は「債務残高が上昇している折に、改めて金融市場から多大なストレスが加わると、顕著かつ広範に影響が増大する恐れ」を指摘している。

アメリカのような先進国も、企業債務が膨らんでいるから弱い立場に置かれるかもしれない。企業による債務不履行が増えれば、過大評価されてきた株価が急落し、消費者心理に響くだろう。

米経済の成長予測も変わる。大手格付け会社フィッチ・レーティングスはその場合に、今年の米経済成長率の予測値を半分の0.8%にまで下げると言う。「中国経済の失速、貿易関連の不確実性といったリスク要因が消えないものと思われるなか、米国株の長期的な水準は史上最高レベルに近いため、調整の可能性が高まっている」からだ。

地政学リスク

加えて世界には相変わらずのトラブルが満ちている。イラン、サウジアラビア、アメリカによる三つどもえの緊張関係、北アフリカ全域に広がる混乱のほか、アジアでは北朝鮮の核開発や、中国の南シナ海・香港・台湾に向かう野心で緊張が高まる。

古今東西おなじみの政治的リスクにも事欠かない。世界各国でポピュリズムが台頭し、市場経済を攻撃する。そこで過去数十年の経済成長を促してきた力が損なわれる。「第4次産業革命という現実から逃避する世界の指導者たちは代償を払うことになる」とカプチャンは言う。「自動化の問題やグローバル化への反動、土着的で排外的なポピュリズムに対抗するにはどんな取り組みが必要かをきちんと考える必要がある」

それがアメリカやハンガリーなど、一部の国の問題にとどまるなら、それだけのことだとも言える。だが政治的な激変が広がれば、第二次大戦後の繁栄を支えてきた経済秩序も脅かされる。「ポピュリズムは市場を信頼しない。市場から構造的な推進力を奪い、長期的に厄介な問題となる」とカプチャンは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中