最新記事

アメリカ社会

アメリカ死体市場の闇 貧困層の善意の献体狙う「ボディブローカー」

2017年11月7日(火)12時40分


最期の無私の行い

ニューメキシコ州アルバカーキーで兄弟と一緒にバスタブや台所カウンターの修理業を営んでいたハロルド・ディラードさんは、2009年の感謝祭の翌日に末期がんと宣告された。

「まだ56歳だった。活動的で健康的だった。充実した人生を送っていたのに、ある夜、一気に奈落の底に突き落とされた」と、ディラードさんの娘、ファラー・ファソルドさんは語る。「父は最期に無私無欲の行いをしたいと思い、献体することを決めた」

ファソルドさんによると、ディラードさんが死の床にあったとき、アルバカーキーのボディーブローカー「バイオ・ケア」の社員が2人を尋ね、科学に献体するという素晴らしい贈り物は医学生や医師や研究者のためになると、熱心に語った。この社員は、ひざ置換手術のトレーニングなど、父親が献体した場合に可能性のある使用例をいくつか挙げたという。

だが、バイオ・ケアに対するファソルドさんの見方はすぐに変わった。父親の遺灰を受け取るのに、約束されていたより数週間も長くかかった。受け取ってみると、父親の遺灰ではないのではないかと疑った。砂のように見えたからだ。ファソルドさんは正しかった。

2010年4月、ファソルドさんは当局から、父親の頭部が医療機関の焼却炉から見つかったと連絡を受けた。そこで初めて、バイオ・ケアが遺体の部位を売っていると知ったのだという。

「私は完全にヒステリックになった」とファソルドさんは言う。「遺体を売ると言ったなら、私たちは絶対に署名しなかった。冗談じゃない。父はそんなことは全く望んでいなかった」

バイオ・ケアの倉庫で、当局は45人の遺体から切断された少なくとも127の部位を発見したことを明らかにした。

「これら遺体は、のこぎりのような粗悪な切削工具で切断されたようだ」と、刑事は宣誓供述書に記している。

バイオ・ケアの経営者ポール・モンタノは、詐欺容疑で訴追された。警察の宣誓供述書によると、モンタノ容疑者は遺体を悪用したことについて否認しており、自身の父親を含む「ボランティア社員5人」でバイオ・ケアを運営していたと刑事に語ったという。同容疑者はコメント要請に応じなかった。

検察はその後、証拠不十分のため、訴追を取り下げた。献体の扱いに対する規制や、最近親者の保護に関する州法もない。

最終的に当局は、ファソルドさんの父親の体の一部を取り戻し、適切に火葬されるようファソルドさんの元へ返した。焼却炉内から見つかったものもあれば、バイオ・ケアの施設内で見つかったものもあったという。

遺族を守るよう法律が改正されていないことに驚いている、とファソルドさんはインタビューで語っている。

「もっと前に何か手を打てたはず。新しい法律をつくることも」と、ファソルドさんはボディーブローカー業界について言う。「とにかく非常に怪しく、悪質だ」

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

Brian Grow and John Shiffman

[ラスベガス 24日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2017トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 4
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 7
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 6
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中