最新記事

教育

東京と地方の文化格差を助長する、都内大学の定員抑制

2017年9月7日(木)14時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

しかし筆者の郷里の鹿児島県で見ると、地元大学入学者比率は36.6%から33.6%に減っている。逆に新潟県のように17.3%から35.6%に倍増した県もある。<表1>は、地元入学者比率の変化を都道府県別に明らかにしたものだ。

maita170907-chart02.jpg

全国的に地元入学者の比率は増えている(5つの道県を除く)。10ポイント以上増加した県も少なくない(黄色マーク)。中でも群馬、新潟、静岡、愛知、滋賀、岡山、広島、徳島、長崎では、地元志向の高まりが顕著だ(赤字、15ポイント以上増加)。

地元に魅力的な大学ができた、学費の安い公立大学ができたなど、様々な要因があるだろう。丹念に探れば、若者の定住を促すヒントが見えてくるかもしれない。

ただ大学が都市部に偏在しているため、進学に際して地域を移動する生徒が多い状況は変わっていない。全国の私大生の半分が首都圏、2割が都内23区の大学の学生で占められている(2017年5月時点)。

【参考記事】海外旅行格差から見える日本社会の深い分断

これを是正するために、都内23区の私大の定員増加を禁止する方針が示されている。大学の地方分散を図ることが狙いだが、若者の地域移動をむやみに抑えつけることは、文化の地域格差を固定(拡大)させることにもなる。

中世のヨーロッパでは、若者は教わりたい教師の下に移動し、各地に学びの共同体が出来上がった。これが、大学(University)の原初形態だ。移動とはすなわち「交流」で、都会の大学を出た後Uターンし、学んだ知識やスキルを地元の発展に活かしている若者もいる。大学進学時に若者が移動することは、地域間の文化交流という機能も果たしている。

都市部での大学設置抑制に踏み切る前に、そこで学んだ卒業生(地方出身者)のUターン率などの指標も観察してみる必要がある。

<資料:文科省『学校基本調査報告』

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「CT写真」で体内から見つかった「驚愕の塊」
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 10
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中