最新記事

戦争犯罪

世界の戦犯に睨みを利かす米「戦犯局」が廃止へ

2017年7月19日(水)20時45分
コラム・リンチ

今度の件は、戦犯局が初めて味わう大きな挫折だ。民主党政権下でも共和党政権下でも、嫌々ながらも支持され続け、ジョージ・W・ブッシュ政権下のネオコン(新保守主義)政治家「ジョン・ボルトン国連大使(当時)の下の暗黒の日々ですら生き延びてきた」のに、とディカーは言う。

もっとも、ドナルド・トランプ政権の発足前でさえ、戦犯局の将来は疑問視されていた。バラク・オバマ前米政権下でも、国務省は戦犯局を格下げして国際麻薬・法執行局へ統合することを検討していた。

国務省キャリア組の弁護士だったバックウォルドが戦犯局の官僚トップに抜擢され、特使の肩書と臨時大使級の権限が与えられたときも、臨時大使はそのまま失効。上院の承認も申請すらされずに終わった。

戦犯局は設立初期から、スーダンのオマル・ハッサン・アフメド・アル・バシル大統領やシリアのバシャル・アサド大統領など、大量虐殺の容疑者の訴追を支援してきた。戦争犯罪人の逮捕につながる情報に報奨金を出す基金の運営も担った。ICCから大量虐殺の容疑で逮捕状が発行されている唯一人の国家元首スーダンのバシルに圧力をかけて、米国連総会への出席を断念させたこともある。

【参考記事】スーダン戦犯におもねる国連の機能不全

オバマ前政権下に国務省で人権を担当したマイケル・ポスナー元米国務次官補は、戦犯局が廃止されても、国務省内の別の部局が任務を引き継ぐ可能性は残ると指摘する。

だが独立した「戦犯局」の存在なくして、世界中の戦犯指導者に圧力をかけるのは難しいだろう。

(翻訳:河原里香)

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

麻生自民副総裁、トランプ氏とNYで会談 米大統領選

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ビジネス

中国当局、地方政府オフショア債への投資を調査=関係

ビジネス

TikTok米事業継続望む、新オーナーの下で=有力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中