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妊娠22週で、胎児は思考力や感覚を持つ? 「妊娠中絶の罪」を科学から考える

ABORTION AND SCIENCE

2022年06月30日(木)18時24分
デービッド・フリードマン(科学ジャーナリスト)

理屈の上で、妊娠22週の胎児に高度な意識はないはずだ。大脳の表層を占め、思考や知覚などの高次機能をつかさどる大脳皮質は未完成。大脳皮質を構成する神経細胞は、まだ脳の深部で産出されている途中だ。

神経細胞は脳深部で作られた後、表層に向かって移動する。22週の脳内ではシナプスを介した細胞同士のシグナル伝達が既に始まっている。この情報伝達は思考の基盤であり、22~40週にかけて脳には100兆個ものシナプスが形成される。

ワイアットによれば情報伝達の点で26週の胎児はかなり未熟だが、それでもこの妊娠週数で誕生した子は母親の声、特に子宮内を模し、くぐもって聞こえるように加工した声に反応するという。音楽や母乳の味に反応する子もいるそうだ。

22週の時点ではニューロン結合が未発達だから、いわゆる思考や感情、意識、痛みを感じる能力といったものが形作られるには至っていないだろうとワイアットは言う。

近年、トラクトグラフィーと呼ばれる特殊なMRI技術を使い、子宮内の胎児の脳の様子を安全に映像化できるようになり、初期のニューロン結合の様子を詳細に見ることができるようになった。ワイアットによれば、そのおかげで22週の時点では豊かで複雑なニューロン結合のネットワークが形成されるには至っていないことが分かってきたのだという。

22週で思考や感覚に似たものが存在する可能性

その一方で、科学的裏付けは取れていないものの、22週でも思考や感覚に似たものが存在していることを示唆する事例もあるとワイアットは言う。「胎児が痛みの刺激に反応したことが記録された事例も複数ある。まだ大脳皮質は未完成なのにだ」と彼は言う。「胎児の脳には、大脳皮質が形成されるまで(何らかの形で)意識の役割を果たす謎の構造がある可能性がある」。だがこれは仮説の域を出ないとワイアットは言う。

他方で専門家たちは、高リスク妊婦であっても安全に妊娠・出産できるよう努力を続けている。妊婦が心臓病や高血圧、糖尿病といった持病があると、母子共に生命の危機にさらされることは珍しくない。

妊婦の平均年齢の上昇も、高リスク妊娠を増やしている要因だ。アメリカの妊婦の平均年齢はロー判決が出た当時は21歳だったが、今では30歳を超えているとみられる。35歳以上の妊娠は「高齢妊娠」に分類されるが、ネルソンによるとこの線引きは取りあえずの目安にすぎない。実際には「リスクは20歳代後半から上昇し始める」のだそうだ。

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