最新記事

サイエンス

妊娠22週で、胎児は思考力や感覚を持つ? 「妊娠中絶の罪」を科学から考える

ABORTION AND SCIENCE

2022年06月30日(木)18時24分
デービッド・フリードマン(科学ジャーナリスト)

220705p40_CZT_02.jpg

ロー対ウェードの原告マッコービー(中央) MARK REINSTEINーCORBIS/GETTY IMAGES

これらの州法は、ロー判決で認められた憲法上の権利に抵触するとして、裁判所に差し止めの申し立てが行われている。今回、最高裁が「違憲ではない」としたのが、妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピ州の法律だ。世論調査では、国民の3分の2以上がロー判決を支持しており、11月の中間選挙では中絶の権利が争点になりそうだ。

ただし、ロー判決が覆されても、中絶の権利に関して胎児の子宮外生存可能性が重要な要素ではなくなる、という意味ではない。

ミシガンやオハイオ、ユタなど26州は、大半の中絶を禁止することが「確実」もしくは「可能性が高い」とみられる。ニューメキシコ、バーモント、ニュージャージーなど6州とコロンビア特別区(ワシントンDC)は、中絶を認める妊娠期間を制限していない(ただしロー判決に準じる)。これらの州の議論では、胎児の生存可能性はあまり重視されないだろう。

一方、カリフォルニア、ニューヨーク、コロラド、イリノイ、バージニアなど18州は引き続き、胎児が生存可能になる時期まで中絶の権利を保護するだろう。

アメリカ人のほぼ半数はこれらの州に住んでいる。つまり、安全で合法的な中絶手術を受けるためにこれらの州まで足を運ぶ大勢の女性も含めて、アメリカの大多数の女性にとって中絶のアクセスは、早産児の生存可能性に関する医学的な見地に委ねられることになる。

中絶をめぐる議論で持ち出される「科学」

今後、中絶をめぐる議論では、法的、道徳的、宗教的、哲学的な考察と併せて、多くの人が科学は自分たちの味方だと主張するだろう。もっとも、科学それ自体が、中絶をめぐる全ての道徳的、政治的な疑問に答えることも、アメリカの二極化した政治を癒やすこともない。

科学は時に、不確実性を増大させる。胎児の子宮外での生存可能性については50年前より多くのことが分かるようになったものの、依然として不透明で議論の余地がある。

ある胎児が正産期前に生まれた場合に生存できるかどうかは、あくまで仮定に基づく議論になる。

ただ、医学的には、たとえ超早産(妊娠28週未満)で生まれても、ひとまず救命できる可能性がある分岐点は、かなりはっきりと分かっている。それは妊娠21週と1日、つまり40週の妊娠期間の半分を超えた時点だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏首相、年金改革を27年まで停止 不信任案回避へ左

ビジネス

米ウェルズ・ファーゴ、中期目標引き上げ 7─9月期

ビジネス

FRB、年内あと2回の利下げの見通し=ボウマン副議

ビジネス

JPモルガン、四半期利益が予想上回る 金利収入見通
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 3

    【独占】「難しいけれど、スローダウンする」...カナ…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 3

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    ハン・ガンのノーベル文学賞受賞はなぜ革新的なのか?…

  • 1

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 2

    完全コピーされた、キャサリン妃の「かなり挑発的な…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 5

    「結婚に反対」だった?...カミラ夫人とエリザベス女…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:日本人と参政党

特集:日本人と参政党

2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る