最新記事

ノンフィクション

人類の未来をつくり出した「7年間一度も座ったことがない男」:AI誕生秘話

2021年11月30日(火)19時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

写真はイメージです LightFieldStudios-iStock.

<時は、2012年。その名は、ジェフリー・ヒントン。人工知能の創世記から今に至る歴史(のほんの一部)を、人間ドラマから探る>

自動運転車やディープラーニングに関する話題を目にしない日がないくらいに、目まぐるしく進化する人工知能(AI)の世界。どこかSFの世界を見ているかのような、近未来を感じさせる話題に胸躍らせたことがあるはずだ。

しかし、その技術者の名前が思い浮かぶことは少ないのではないか。むしろ、AI開発に資金を投資する事業家ばかりがクローズアップされるほうが多いかもしれない。

人類の未来をつくり出しているのはどんな人々なのか。そんな彼らの人間くさい素顔に迫った本がこのたび発売された。『ジーニアス・メーカーズ――Google、Facebook、そして世界にAIをもたらした信念と情熱の物語』(小金輝彦・訳、CCCメディアハウス)だ。

本書は、ニューヨーク・タイムズの記者ケイド・メッツがAIにかかわる重要人物500人以上に取材した、AIの近代史ともいうべき物語でもある。

AI開発の最前線を走る技術者とその才能を見いだして莫大な資金を投じる事業家たちに肉迫した本書を読めば、人類の未来は今、彼らの手によってつくられていると改めて実感するだろう。

キーマンであるAI技術者から、最先端技術をめぐる人と金の動きを見ていこう。

持病で7年間一度も座ったことがない男

その名は、ジェフリー・ヒントン。1970年代から活躍するAI技術者であり、たった3人の会社を率いる。そんな彼の会社を、バイドゥ、グーグル、マイクロソフト、そして世界でほとんど知られていない設立2年のスタートアップ企業が大金をかけて奪い合うオークションが2012年に行われていた。

「最後にまともに座ったのは、2005年だった」とヒントンは言う。椎間板ヘルニアを極度に悪化させて、座ることをやめた。

トロント大学の研究室では、立ったまま作業のできる机を使う。食事のときは、クッション材の入った小さなパッドを床に敷き、テーブルの前にひざまずいた。長距離を移動するには、列車を使う。

ヒントンとヒントンの研究室で学ぶ大学院生2人からなる「DNNリサーチ」は、その入札が始まる2カ月前に、コンピューターによる世界の見方を変えていた。ニューラルネットワークと呼ばれる、脳の神経回路網を数理モデルで表現したものを構築したのだ。

それによって、かつては不可能だと思われていた、花や犬や猫といったありふれた物体を正確に識別することが可能になった。

ニューラルネットワークは、膨大な量のデータを分析することによって、この非常に人間的な技術を習得することができた。ヒントンはこれを「ディープラーニング」と呼び、その潜在力は非常に高かった。

コンピューター・ビジョンだけでなく、音声デジタル・アシスタントから自動運転車や創薬まで、すべてを一変させるのは確実だとされる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏政府、シーイン訴訟審理でサイト3カ月間停止求める

ビジネス

エアバス、11月の納入数が減少 胴体パネル問題で

ワールド

台湾最大野党主席、中国版インスタの禁止措置は検閲と

ビジネス

ドイツ景気回復、来年も抑制 国際貿易が低迷=IW研
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中