最新記事

2大レポート:遺伝子最前線

人生は遺伝でどれだけ決まるのか 2万人の遺伝子を追跡調査した国際研究

2019年1月28日(月)16時20分
アビー・インターランテ

MASTER1305/ISTOCKPHOTO

人生の成功はどれだけ遺伝子に左右されるのか。この疑問を実際に調べる国際研究が行われた。

アメリカ、イギリス、ニュージーランドの科学者のチームが2万人を超える人々の遺伝子を調べ、その後の人生を追跡調査。2018 年7月に発表されたこの研究では「多遺伝子スコア」を使って参加者の遺伝子を分析した。ここでいう多遺伝子スコアとは、多数の遺伝子が学業成績、キャリアの成功、裕福度に及ぼしている影響を数値化したもの。研究チームは親の教育レベル、収入、職業、経済力も調べた。

「ゲノム(人間の全遺伝情報)には、学業成績における個人差を生む部分が何百もある」と、研究チームを率いるデューク大学医学大学院のダン・ベルスキー助教は言う。

環境要因も多遺伝子スコアとの相関が強いことが多く、多遺伝子スコアの高い子は大抵の場合、比較的裕福な家庭環境で育っている。スコアの高い子供は両親以上の成功を収めていることも多かった。

成功の程度と多遺伝子スコアの関係について、兄弟姉妹の比較も行った。「同じ先祖を持つ人たちを比較できるので、非常に有益な調査だった」と、ベルスキーは言う。同じ家系、同じ環境で育った人々を調査できたことで、個人の多遺伝子スコアと成功の関連がより明確に分かってきたという。

「同じ両親の下に生まれ、同じ家庭に育った2人の子供の場合、多遺伝子スコアの高い子のほうが学業、職業、経済力でよりよい結果を出す傾向がある」と、ベルスキーは言う。ただし多遺伝子スコアの異なる2人のきょうだいの成功の差は、別々の家庭に育った人たちの間の差より小さかった。さらに、子供の成功の程度は本人の多遺伝子スコアだけでなく母親のスコアにも左右されることが分かった。

もちろん、多遺伝子スコアのテストを受ければ将来が分かるというわけではない。「今回の結果は、成功の決め手は家庭環境より遺伝子の個人差だと示しているわけではない」と、ベルスキーは説明する。

<2019年1月22日号掲載>

【関連記事】遺伝子編集「クリスパー」かつて不可能だった10の応用事例
【関連記事】クリスパー開発者独占インタビュー「生殖細胞への応用は想定内」

※2019年1月22日号は「2大レポート:遺伝子最前線」特集。クリスパーによる遺伝子編集はどこまで進んでいるのか、医学を変えるアフリカのゲノム解析とは何か。ほかにも、中国「デザイナーベビー」問題から、クリスパー開発者独占インタビュー、人間の身体能力や自閉症治療などゲノム研究の最新7事例まで――。病気を治し、超人を生む「神の技術」の最前線をレポートする。

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税

ワールド

ルビオ氏「日米関係は非常に強固」、石破首相発言への

ワールド

エア・インディア墜落、燃料制御スイッチが「オフ」に

ワールド

アングル:シリア医療体制、制裁解除後も荒廃 150
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 6
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中