最新記事
ビジネス

ジャニーズ問題は「氷山の一角」...いまだ日本の会社内で見て見ぬふりされる「時代遅れの価値観」はこんなに

THE POWER BALANCE SHIFT

2024年1月11日(木)19時28分
ジェヨブ・S・クァック(韓国在住ジャーナリスト)
日本企業の労働者

ILLUSTRATION BY SMARTBOY10/ISTOCK (PEOPLE), ILLUSTRATION BY ENJOYNZ/ISTOCK

<旧ジャニーズ問題で露呈した、あまりにずさんな企業の人権意識。労働力の減少と、国民の意識の変化が日本企業に変化を迫る>

旧ジャニーズ事務所は長らく日本のエンターテインメントの頂点に君臨していた。その栄光を支えたのは同社が巧みにスターダムにのし上げた男性アイドルたちだ。

だがタレントマネジメントの辣腕ぶりとは裏腹に、同事務所では目を覆うようなずさんな経営と舞台裏での人権侵害がまかり通っていた。具体的には、ジャニー喜多川こと創業者の故喜多川擴の少年たちに対する長年の性加害とその隠蔽だ。

このスキャンダルは被害者に深刻な心的外傷を及ぼしただけではない。同事務所の信用は地に落ち、企業スポンサーやテレビ局に見放されて財政状況も一気に悪化した。

エンタメ業界は特殊と思われがちだが、同様のガバナンスの欠如はどの国のどの業界にも見られる。カリスマ的トップが絶対的な力を持ち、その取り巻きが社内の異論を封じ込め、メガトン級のスキャンダルが勃発するまで知らぬ存ぜぬを押し通すのだ。

旧ジャニーズの場合、タレントの生殺与奪の権を握る家父長的なボスと、タレント志望の10代の訓練生という圧倒的な力の差の下、ひどい虐待が長年繰り返された。

被害者への補償手続きは進行中で、スキャンダルがもたらす社会的変化はまだ明確になっていない。ただ、この問題が日本企業に何らかの教訓を与えたとすれば、労使関係を根本的に見直す必要がある、ということだろう。

少子高齢化で労働市場の変化が不可逆的に進む一方で、人権に対する企業の姿勢が厳しく問われるようになっている。職場環境の改善に本腰を入れなければ優秀な人材を確保できず、投資家や消費者にそっぽを向かれかねない。

ショービジネス以外の業界では、ここ10年ほどで労使の力関係の変化が徐々に進んできたと、専門家は指摘する。

求人が増えたおかげで、求職者の選択肢は広がった。ソーシャルメディアの普及で内部告発がやりやすくなり、集団主義的な職場でさえ不正行為を隠蔽しにくくなった。業種を問わず、どの企業も、サプライチェーンにおける強制労働から社内のハラスメントまで種々の倫理規定を重視せざるを得なくなっている。

SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中