最新記事

日本経済

人口減で地方消滅の危機 政府は地方銀行・バスを統合へ

2019年4月3日(水)18時20分

政府は未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で、地方銀行や路線バスの運行会社の経営統合を認めやすくする議論を本格化させた。ただ、人口減少に歯止めがかかっておらず、合従連衡で「地方消滅」の危機から脱することができるかは微妙だ。写真は鹿児島県内で2015年撮影(2019年 ロイター/Issei Kato) - GF10000153595

政府は、3日の未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で、地方銀行や路線バスの運行会社の経営統合を認めやすくする議論を本格化させた。ただ、人口減少に歯止めがかかっておらず、合従連衡で「地方消滅」の危機から脱することができるかは微妙。

専門家からは、今回の対応策と併せ、「地方中核都市構想」などの地方活性化に向けたより抜本的な政策対応が必要との指摘が出ている。

政府が、地方企業の統合基準を見直すのは、人口減少に伴う収益悪化を未然に防ぐのが狙い。

統合により地域内のシェアが高くなっても、金融や交通インフラといった地域社会を支える経済的基盤を維持できるよう、新法制定や現行のガイドライン見直しなどで、公正取引委員会による独占禁止法の審査に「一定の予見可能性」を持たせる方向で議論が進んでいる。

金融分野では、全国9地域のうち、東北、北陸、四国、九州で地銀・第2地銀の6割超が企業のメーンバンクとなっている。日銀のマイナス金利政策の長期化や、ゆうちょ銀行の限度額引き上げが今後、収益環境を一段と悪化させる懸念もあり、政府内には「地銀の経営が傾けば地域経済の悪化に直結しかねず、(金融機関の)破綻を待つのは危険な選択肢」(関係者)との危機感がある。

一方、地方の路線バス事業の収支も厳しい。国土交通省が保有車両数30台以上の一般乗合バス事業者245社を対象にした調査では、2017年度に3分の2を超える170事業者が経常赤字だった。

赤字事業者のうち、2つの市町村をまたいで運行する幹線バス事業者については赤字額の2分の1、地域内で運行するコミュニティバスでは、自治体や事業会社を通じて同様に、国が赤字を補填する仕組みがある。

経営が悪化するほど国費負担が膨らみかねない現状に、政府は「当面はこれらの2分野に限定し、独占禁止法の適用緩和を検討する」(同)構えだ。

もっとも、議論の末に6月に閣議決定する新たな成長戦略では「統合を促すスキームが独禁法に抵触すれば『新法』、抵触しなければ『新たなガイドライン』の制定となるが、いずれにしても一定期間経過後の見直しか、時限措置の規定が入る」(先の関係者)とみられている。

独禁法の例外規定について、別の政府関係者によると、例外規定は5年から10年の時限措置とする案が出ており、いずれのケースでも一時的な措置とする。

国勢調査などの推計によると、2017年に1億2671万人だった日本の総人口は2055年に1億人を割り込み、2065年には8808万人となる見通し。

ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏は「経営統合が促進され、効率化が図られても人口減少による地方経済の『パイ縮小』という本質的な問題が解決するとは考えにくい」と指摘。そのうえで「地方基盤企業の統合問題に限らず、併せて『地方中核都市構想』なども議論してはどうか」と話している。

(マクロ政策取材チーム 編集:田巻一彦)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:大火災後でも立法会選挙を強行する香港政府

ビジネス

リオ・ティント、コスト削減・生産性向上計画の概要を

ワールド

中国、東アジアの海域に多数の艦船集結 海上戦力を誇

ワールド

ロシアの凍結資産、EUが押収なら開戦事由に相当も=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中