コラム

アメリカ人は東京五輪の開催をどう考えている?

2021年05月22日(土)15時15分

7月23日の開会式まであと2カ月だが……AP/AFLO

<圧倒的な勝利を収め続けてきたスポーツ大国の意外な世論と、開催可否に悩む日本への直言>

日本は新型コロナウイルス感染拡大の第4波に見舞われ、1年延期した東京五輪の開催を危ぶむ声が広がっている。ワクチンの接種は始まったが、感染者数と死者数は大幅に増加を続け、新規感染者数は連日5000人を上回っている。日本国内の世論を見ても、予定どおり開催できるという意見は4分の1以下だ。

一方、過去の大会で圧倒的な強さを誇ってきたアメリカでも、国民や政府が五輪開催を熱望しているようには見えない。

実は数十年前に比べ、五輪に対するアメリカ人の関心は大幅に低下している。2016年の世論調査では、51%が五輪中継を熱心に見るつもりはないと答え、開催国を知っている回答者も半分以下だった。

競技面で最も成功を収めている国があまり興味を示さなくなっているのであれば、大会が中止になっても大した騒ぎにはなりそうにない。

五輪開催を最も望んでいるはずのアスリートたちも、世界中から1万人の選手や関係者が集まるイベントの危険性を訴え始めている。なかでも最も目立つスター選手が最も弱気になっているようだ。

女子テニスの4大大会で4度の優勝経験を持つ日本の大坂なおみは、世界で最も稼ぐ女性アスリートであり、東京大会での金メダル獲得が有力視される最も「市場性の高い」五輪代表選手だが、この夏に大会が開催できると確信できずにいる。

2016年リオデジャネイロ五輪で銅メダルを獲得した男子テニスの錦織圭も、パンデミック(世界的大流行)に対する日本の対応に疑問を投げ掛け、大会開催への不安を口にした。

女子テニスで歴代最高の選手であり、今も世界で最も有名なセリーナ・ウィリアムズも、リスクの上昇を理由に五輪参加を明言していない。

それでも人間心理を考えれば、東京五輪は予定どおり開催される公算が大きい。理由は、程度の差はあれ誰もが陥る「サンクコスト(埋没費用)の誤謬」だ。人は何かのために資源や労力を投じると、途中で止めることをひどく嫌う。たとえそれが正しい判断であったとしても、だ。

錦織やウイリアムズのように五輪開催への疑問を口にするアスリートは圧倒的少数派だ。開催を確信できない大坂の昨年の年収は約40億円。五輪の金メダル獲得は本人の夢だったとしても、4大大会優勝に比べれば小さな成功であり、年収にはほとんど影響しない。

五輪不参加は、大坂にとっては取るに足りないことなのだ。しかし、五輪に参加するほとんどのスポーツには、億万長者のチャンピオンはいない。選手の大半は、キャリアの頂点が五輪であるアマチュアだ。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

AI企業へのVC投資活発、アンソロピック130億ド

ビジネス

ベライゾン、新CEOにペイパルのシュルマン元CEO

ビジネス

中国人民銀、11カ月連続で金購入 ドル離れ加速との

ワールド

中国が台湾併合すれば「米国の利益に影響」、頼総統が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレクションを受け取った男性、大困惑も「驚きの価値」が?
  • 3
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿すると「腎臓の検査を」のコメントが、一体なぜ?
  • 4
    一番お金のかかる「趣味」とは? この習慣を持ったら…
  • 5
    筋肉が育つだけでは動けない...「爆発力」を支える「…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃の「オーラの違い」が話題…
  • 7
    「不気味すぎる」「昨日までなかった...」ホテルの天…
  • 8
    監視カメラが捉えた隣人の「あり得ない行動」...子供…
  • 9
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 10
    「美しい」けど「気まずい」...ウィリアム皇太子夫妻…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 6
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 7
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 8
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 9
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 10
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story