コラム

イラク日報問題、隠蔽内容と動機の追及が弱いのでは?

2018年04月05日(木)17時20分

稲田朋美元防衛相は昨年7月、南スーダン日報問題の責任をとって辞任した Kim Kyung Hoon-REUTERS

<森友文書改竄の解明もされないなかで浮上した陸自イラク派遣の日報問題。隠蔽体質を問題視するのは当然だが、「どんな事実をなぜ隠したのか」ということの方が重要なのでは>

財務省の文書改竄が問題視されているなか、陸上自衛隊のイラク派遣部隊の日報について、「ないと思ったらあった」ことが明らかとなりました。正確にいえば、当時の稲田朋美防衛相が国会で「残っていない」と答弁したのに、その翌月の2017年3月には陸上自衛隊が存在を確認していたというものです。

要するに「ないと思ったらあった、そのことを延々と隠し、今明らかになった」という話で、稲田氏は怒っているそうです。稲田氏と日報問題ということでは、在任中の「南スーダン日報問題」が思い起こされます。この時にも、あるとかないとか、公開請求したら黒塗りだったとかいう話が問題になりました。

一連の公文書管理の問題ですが、まず違法だという主張は分かります。また、法律に反して文書が隠されたり、あるいは廃棄・改竄されたりするようでは民主主義が機能しないし、特に自衛隊に関しては文民統制が上手くいかないという話も理解できます。

それでは、どうして文書が適正に保管され、必要に応じて公開されなくてはならないかというと、それは文書の中身に意味があるからです。また、反対に改竄や隠蔽がされるということは、文書の中身に「公開したくない」情報が含まれているという推測が成り立ちます。

そう考えると、今回の「イラク日報」について、内容に関する公開がされず、その議論も行われないのは不自然です。さらに言えば、「どうして隠したのか」という動機の解明も必要です。文書の内容も隠蔽の動機の追及も飛ばして、ひたすら政治的な動機からの非難を与野党一緒になってやっている、そんな状態には違和感を覚えざるを得ません。

一つの可能性として考えられるのは、「スーダン日報を隠したかったので、より古いイラク日報が出てきては困る」と判断されたというストーリーです。ですが、結局スーダン日報は存在が明らかになったのですから、ここまで延々とイラク日報を隠す必要はなかったはずです。

もしかしたら、組織というのは一旦隠した内容を「実はありました」と告白することが「難しい」性質があるからかも知れません。つまり正直に「あった」としてしまうと、「隠した時期の責任者のメンツ」を潰すことになるからです。

そう考えると、今回「あった」と公にした理由についても調べる必要があるかもしれません。森友事件を見ていて「文書隠蔽」がバレた時のインパクトに恐れをなして申し出ただけなのか、それとも安倍政権の弱体化をついてドサクサ紛れに告白したのか、陸上自衛隊念願の組織変更が実現したので「もういいだろう」とやったのか――など「なぜ今、上申されたのか」という動機の追及も必要でしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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