コラム

クリーンエネルギーへのシフトは日本を救う!

2021年10月07日(木)18時20分

エネルギーシフトは国全体を元気付けるはず(英南部スウィンドンの風力発電用タービン) Andrew Boyers/REUTERS

<地球環境のためでも他国のためでもなく、日本の安全保障と経済、そしてクールなジャパンのため再生可能エネルギーへシフトすべきだ!>

今月、全地球人が注目する、世界の未来が懸かった国際的な大イベントが2つ行われる。一つはもちろん、僕の誕生日。そして、その陰に少し隠れているのが、第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)だ。8月に国連の政府間パネルであるIPCCは報告書を発表し、「温暖化の原因は人間の活動だ」と断定。今すぐ地球規模でCO2排出量の大量削減を実現しないと、気候変動による大惨事は避けられないと、「コードレッド」の警鐘を鳴らした。今回の会議はその直後に開催されるだけに、歴史のターニングポイントになるか、特に熱い眼差しを向けられている。

日本の岸田新総理はそこでどんな対策を打ち出すのか、どんな約束を挙げるのかが気になるが、僕ならこう言う:

「わが国日本は20××年までに、クリーンエネルギーへの電源シフトを完了させる!! あと、二次会はこの後、和民でやります!」と。

××に入る年は専門家と相談したいところだが、「なるはや」にしたい。そして、大事なのは、他の国がたとえ空っぽの目標を挙げても、約束を果たさなくても、どんな言動を見せても、僕らはその大胆な宣言通りに代替エネルギー、再生可能エネルギーの導入に全力を投入すること。なぜなら、そうしたクリーンエネルギーへ移行するのは、他国の人々や全地球のためにやるもの(だけ)ではない。温暖化対策(だけ)でもない。日本の国益につながり、日本の未来を保証するための「強靭化策」だから!

いいえ、僕は選挙に出るつもりはないですよ。選挙権もないし、被選挙権もない!本気でそう思っているだけ。

「温暖化対策」というのは、大気も海も全部つながっていることから、日本が頑張っても他国が頑張らないと意味ないという、以前にもこのコラムで取り上げた「フリーライダー問題」の代表格だ。そのため、「あの国が動かないなら、こちらも動かない!」という、意地の張り合いにもなりがちだ。でも、その考え方を撲滅したい。代わりに、こう考えよう:

クリーンエネルギーシフトは日本の安全保障策だ!
クリーンエネルギーシフトは経済成長促進剤だ!
クリーンエネルギーシフトはクールジャパンの素だ!

つまり、他国への思いやりが全くなくても、環境問題を全く気にしなくても、国益だけ考えてもクリーンエネルギーへ移行すべきだということ。

スーパー経由の頸動脈

1個ずつ簡単に説明しよう。日本のエネルギー自給率は約10%。つまり、電気をつけたり、工場の機械を動かしたり、車に乗ってうまい棒を買いに行ったりしてエネルギーを使うときは9割、他国から輸入した燃料に頼っているのだ。平時はあまり考えないが、有事になった場合、その輸入が止められて、備蓄が尽きたらどうなるか?燃料がないと、戦争時にも震災時にも欠かせない自衛隊の船も動かない、車両も走らない、飛行機も飛ばない。入手できる燃料を全部自衛隊に回したら、経済は完全停止する。工場も動かない、車や電車での通勤もできない、インターネットもつながらず、リモートワークさえできない。オンラインでニューズウィークが読めない!これだけで大惨事だね。

どれぐらい現実味のあるシナリオでしょうか。もちろん、敵国が日本の周りを囲むような包囲網を張り、燃料の輸入を完全に阻止するのは難しいはず。領海は広く、近海においては海上自衛隊の堅い防衛力がある。だが、例えば、ペルシア湾とオマーン湾の間にある、狭いところで幅33キロしかない、ホルムズ海峡を封鎖するとどうだろう?遠方での実力行使が制限されている自衛隊は封鎖を解消することが難しかろう。日本と関係のない国同士の戦いでホルムズ海峡が通行止めになる可能性もある。どのみち、日本向けの原料が8割も通るこの海峡が封鎖されたら、日本の生命線が断ち切られることになる。

その予防策として、憲法を改正して、長期的な潜航が可能な原子力潜水艦を導入したり、軍備強化したりすることで防衛力を高める選択肢はもちろんある。だが、クリーンエネルギーへ移行した方が確実だろう。例えるなら、籠城攻めにされて敵軍に水源を絶たれたとき、勇敢な兵士を派遣して遠くからお水を持ってきてもらうより、お城の中に井戸を掘った方がいいでしょう?それと一緒だ。

理想論だが、自給率が100%なら、外で封鎖され得るライフラインはない。そもそも生命線が体外に晒しっぱなしになっている現状はどう考えても危険な態勢だ。心臓から血を運ぶ頸動脈がなぜか近所のスーパー経由で脳につながっているような状態だ。それを体内にしまうのがクリーンエネルギーシフト。日本の安全保障に直結するものだ。

次はグリーンシフトの経済効果。日本では輸入額より輸出額が多い状態を指す、貿易収支の黒字状態が元気な経済の証と考えられている。その考え方には少し疑問があるが、貿易黒字を確保したいなら、その方法は簡単。クリーンエネルギーにシフトすればいいのだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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