コラム

消費税増税による消費低迷が長引く理由

2018年04月03日(火)14時50分

消費税増税はインフレ目標の達成が絶対条件

これまでの考察から、以下の結論が導き出される。消費税増税が行われるとすれば、それは少なくとも、「賃金上昇が物価上昇を上回り、実質賃金が労働生産性の上昇を反映して上昇する」という定型的な経済成長過程に日本経済が回帰していることが、その絶対の条件となる。というのは、そのような定型的状況にたどり着く前に消費税増税が行われてしまうと、これまでの前2回の消費税増税がそうであったように、増税による実質賃金低下を時間の経過によって取り戻すことができないために、消費低迷が恒常化してしまうからである。

本稿の冒頭で述べたように、現状の日本経済は、雇用の顕著な改善に伴って、名目賃金上昇の動きが拡がりつつある。それに伴って、一時は低迷してしたインフレ率も、再び上昇しつつある。とはいえ、日銀と政府が目標としている2%のインフレ率、政府が経営者団体に要請している3%の賃金上昇率に安定的にたどり着くまでには、おそらくもう少しの時間的猶予が必要であろう。

現状においては、日銀と政府は何よりも、2%インフレ目標の実現に全力を尽くすべきである。そして、消費税増税についてはむしろ、「2%インフレ目標が安定的に実現されない限りは実行しない」といった、明確な非増税コミットメントを設けるべきである。それは、インフレ下の増税とデフレ下の増税では、その負担の重みがまったく違うからである。

つまり、仮に2019年までに2%インフレ目標が実現できなかった場合、優先されるべきは財政ではなく経済の方だということである。それが、本稿の考察から導き出される、政策の望ましい優先順位である。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

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