コラム

「2日で勝利」の見込み外れたプーチン、大苦戦の前線は「防御」に作戦変更

2022年03月25日(金)17時13分

「3万~5万人の犠牲は許容範囲」

22日の投稿では「昨日、プーチン氏はロシア連邦安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記とセルゲイ・ショイグ国防相、ヴァレリー・ゲラシモフ軍参謀総長、アレクサンドル・ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官とテレビ会議を開いた。ロシア軍の損害についてゲラシモフ氏が『本質的な大きさだ』と報告した」とある。

これに対して「プーチン氏は『本質的な、とはどういう意味か』と下問したが、答えを待たずに『3万~5万人の犠牲は許容範囲だ。勝利の後に達成される目標に比べれば何でもない』と言い放った。プーチン氏は『勝利』の新たな期限を5月7日にし、『人的損失は度外視して、装備を大切にしろ』と命じた」という。

会議ではボルトニコフ氏へのプーチン氏の冷淡さが際立ったと指摘されている。ウクライナ侵攻の大失態の責任を問われる形で体制内の粛清はすでに始まっているともささやかれる。

何でも見通せる水晶玉を持っていても独裁者プーチン氏の心中を見抜くことはできない。「SVRの将軍」はプーチン政権内の反戦グループ、または反プーチン派なのかどうかも定かではない。ただフォロワーを増やすためだけのデッチ上げだとしたら、残忍極まりないプーチン氏を敵に回す危険な火遊びだと言わざるを得ない。

24日、ブリュッセルで北大西洋条約機構(NATO)、先進7カ国(G7)、欧州連合(EU)首脳会議に臨むジョー・バイデン米大統領は「プーチン氏は戦争犯罪者だと思う」と述べている。NATOはロシア軍の生物・化学・核攻撃から身を守るのに役立つ装備やさらなる対戦車兵器、防空ミサイルをウクライナに供与する方針だ。

戦争が長引けば長引くほど、ウクライナの主要都市はチェチェン共和国のグロズヌイやシリアのアレッポのように木っ端微塵に破壊され、ウクライナ軍や市民の犠牲も膨らむ。しかし、ロシアも返り血を浴びて制裁で経済は壊滅的な影響を受ける。米欧にとって絶対に避けなければならないシナリオはロシアとの核戦争だ。

プーチン氏は追い詰められれば「見せかけの勝利」を確保するためウクライナで低威力核兵器を使用することもためらうまい。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領や米欧の政治指導者にプーチン氏に「最低限の勝利」を与える腹づもりはあるのだろうか。仮に、それがプーチン氏には次なる戦争までの時間稼ぎであったとしても。

それともバイデン氏は「戦争犯罪者」プーチン氏の体制転換に目標を定め、長期に及ぶ消耗戦にロシアを巻き込むつもりなのだろうか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米フォード、第1四半期米販売9%減 高額車敬遠され

ワールド

ロシアへ経済訪問団派遣を計画との報道、「事実ではな

ビジネス

原油高に伴うインフレを懸念、「不運なタイミング」=

ビジネス

米ブルー・アウル、傘下2ファンドの引き出し制限 請
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受給年齢」
  • 3
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トランプ関税が米国民に与える「破産」の苦しみ
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 6
    日本の男女の賃金格差は世界でも突出して大きい
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    先進国が出生数の減少を嘆く必要はない? 「経済的…
  • 9
    「一般市民に敵意なし」...イラン大統領が米国民宛て…
  • 10
    200年前の沈没記録が裏付けられた...捕鯨船を海の藻…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story