コラム

韓国ではなぜ新型コロナ第2波のリスクが高まったのか

2020年06月05日(金)15時25分

だが皮肉なことに、防疫レベルを「生活防疫」に緩和した5月6日当日に梨泰院のクラブで初の感染者が発見され、感染が広がり始めた。また、5月末には富川の物流センターで集団感染が発生し、一時は0人だった国内の新規感染者数が5月28日には79人まで増加した。政府が対策を緩和することにより「気の緩み」も広がった結果と言える。

韓国政府、「行動制限」の再実施を発表

結局、韓国政府(「中央災難安全他対策本部」)は5月28日に緊急会見を開き、感染者が再び増加する可能性があるとしてソウルを含む首都圏限定で5月19日〜6月14日まで外出自粛を要請する「行動制限」の再実施を発表した。これにより、美術館、博物館、公園、国公立劇場などの公共施設の運営は休止され、カラオケやクラブ、インターネットカフェ、学習塾など大衆利用施設には営業自粛が勧告された。施設が防疫ルールに従わず運営した場合は、300万ウォン以下の罰金が科せられる。

「気の緩み」以外にもう一つ注意しなければならないのが、宗教団体を中心とした集会の再開である。実際、最近では宗教団体、特に教会を中心に集団感染による感染者が続出している。防疫レベルを「生活防疫」に緩和されてから、多くの教会が礼拝場所をYoutubeなどのオンラインからチャペルなどのオフラインに戻したのが感染拡大に繋がっている。今後、感染拡大を防ぐためには、約1356万人に達するキリスト教信者(プロテスタント+カトリック)や教会等に対する感染防止対策が綿密に実施される必要がある。

韓国における宗教人口の分布
Kim200605_SK.jpg

出所)韓国統計庁から筆者作成


新型コロナウイルスの実態が把握されず無症状の人が多いこと、そしてまだワクチンや治療薬が開発されていないことを考慮すると、感染者ゼロを維持することはかなりハードルが高い。しかし、休みも取らずに新型コロナウイルスと戦ってきた医療従事者の献身や自粛を続けてきた事業者の努力を無駄にしないためにも、戦いは続けていかなければならない。何より「私一人ぐらいは大丈夫」、「私は絶対にかからない」、「マスクをしなくても大丈夫」などの「気の緩み」で感染が広がることが怖い。それこそ、ウィズコロナとポストコロナ時代に最も警戒すべきことだろう。

※本稿は、東洋経済日報2020年6月5日「新型コロナ第2波の懸念高まる韓国:感染再拡大の事態招く「気の緩み」に警戒を」を加筆・修正したものである。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ南部オデーサの教育施設にミサイル、4人死

ワールド

ウクライナに北朝鮮製ミサイル着弾、国連監視団が破片

ワールド

米国務長官とサウジ皇太子、地域の緊急緩和の必要性巡

ビジネス

地政学的緊張、ユーロ圏のインフレにリスクもたらす=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story