コラム

韓国に学ぶ「マイナカード」──情報の民主的な運用にこそ注視すべき

2022年11月01日(火)11時56分
住民登録カード

韓国の住民登録カード(行政安全部のホームページ) ©MINISTRY OF THE INTERIOR AND SAFETY(https://www.mois.go.kr/frt/sub/a06/b06/IDCard/screen.do

<そもそも現代の国家は情報を管理している。情報管理の効率化にいたずらに反対するのではなく、国家が民主的に情報を統制できているかを見守ることが、健全な民主主義そのもの>

マイナンバーカードをめぐる議論が過熱している。日本政府は普及を進めており、河野太郎デジタル大臣は「マイナンバーカードはデジタル社会へのパスポートだ」として、その有用性を積極的にアピール。

対する野党や一部メディアは、これを政府が国民の個人情報を一括管理し、支配を強める試みだ、として強く反発している。

とはいえ、研究のために何度か韓国に暮らした経験を持つ筆者はこの議論に少し違和感を覚える。なぜなら韓国では実に1962年からマイナンバーに相当する住民登録番号が発行され、68年からはこれを記載した住民登録カードも発行されているからである。

カードは外出時に必携とされ、警察などにこの顔写真付きカードを示すことを求められる。彼らは既に半世紀以上もの間、「マイナンバー」「マイナンバーカード」と共に暮らしている。

韓国では住民登録番号は生活に必須の存在であり、多くの人は13桁の自らの番号を暗記すらしている。官公庁での手続きはもちろん、銀行での口座開設や医療機関で診察の際にもこの番号が必要である。

インターネット上でも同様であり、K-POPのファンで韓国のサイトにログインを試みた際に、この番号の入力を求められて立ち往生した経験のある人もいるだろう。

そして当然、韓国では個人情報がこの住民登録番号を通じて、あちこちにひも付けられている。このような個人情報管理システムは、新型コロナ禍のような危機に大きな力も発揮する。

クレジットカードや交通カード、そして何より携帯電話の通信履歴がこの番号とひも付けられていれば、例えばウイルス感染者が規定に反して外出し、地下鉄に乗ったり買い物をしたりしてもすぐに突き止めることができる。

では、韓国ではなぜこのようなシステムが早期に発達したのか。理由は北朝鮮の脅威である。

68年、住民登録カードが発行されるに至った直接的なきっかけは、同年1月に起こった首都ソウルの大統領官邸の裏山にまで迫る北朝鮮のスパイ浸透事件だった。国民一人一人に番号とそれを記載したカードを発行することで、北朝鮮からの工作員を見分けようとしたわけである。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド、電力小売市場の民間開放案 国営企業寡占を是

ビジネス

独VW世界販売、7─9月期1%増 欧州市場やEVが

ビジネス

中国株急落、米中貿易摩擦巡る懸念再燃で利食い売り

ワールド

米、ウクライナのロ領内エネ標的攻撃を支援 数カ月前
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 9
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 7
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 8
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 9
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 10
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story