コラム

踊り場に来た米韓同盟:GSOMIA破棄と破棄延期の真意

2019年11月25日(月)17時50分

当然、この主張には大きな含意が一つ存在する。それは「韓国政府をしてGSOMIA破棄にまで至らせた原因は、そもそも日本側の措置に原因があるのであり、故に非難されるべきは日本である」という事である。だからこそ韓国にとっても、GSOMIA破棄がアメリカの反発を呼ぶであろう事は、予め予想されていた。むしろ、アメリカの反発が起こることを前提に、その反発が韓国ではなく日本に向かい、結果として、日本がアメリカの圧力により韓国が目指す輸出管理措置の撤回に追い込まれることを期待していた、という事になる。

つまり、韓国にとって8月のGSOMIA破棄決定は、この効果を期待した韓国政府の「賭け」であったといえる。とはいえ、結果から明らかな様に、この様な韓国の「賭け」は失敗に終わった。何故なら、韓国による「自らによるGSOMIA破棄の責任は韓国ではなく、日本にある」という主張はアメリカ政府に受け入れられる事なく、その非難の矛先は一貫して韓国へと向かう事になったからである。

あくまで破棄を支持する強硬世論

韓国政府の「賭け」は外れ、日韓GSOMIAは一先ず延長される事となった。しかしながら注目すべきは、韓国政府がこの様な状況に追い込まれた段階においてすら、韓国の世論が極めて強硬であった事だ。例えば11月第一週に行われたリアルメーターという世論調査会社のデータによれば、半数近い48%以上の人々がGSOMIAの破棄に賛成し、その数字は、与党「共に民主党」の支持者だけに限れば、82%以上に上っている。この数字はGSOMIA破棄「条件付き延長」の決定直前の、11月第2週には更に上昇、過半数を超える55%の人が破棄に賛成する事になっている。

しかし、それではどうして韓国の人々は、アメリカ政府の強い反発にも拘らず、これほどまでに強くGSOMIA破棄を求めたのだろうか。この点を考える上で重要なのは、彼らの日韓関係についてではなく、米韓関係についての考え方だ。

まずこの点について指摘しなければならないのは、韓国の人々が米韓同盟を不必要だと考えている訳ではない、という事だ。例えば今年1月のアサン政策研究院の調査によれば、3分の2を超える67.7%の人々が今後も米軍の駐屯が必要だ、と答えている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story