コラム

輸出規制への「期待」に垣間見る日韓関係の「現住所」

2019年07月08日(月)15時15分

そしてそのことは、実は我々が既に「日韓関係の改善」、更にはその重要内容である「歴史認識問題の解決」そのものを、とうの昔に放棄しているのではないか、と言うことを示唆している。以前の本コラムでも述べて来た様に、今日の日韓関係の悪化の背景には韓国における日本の重要性が低下し、結果として韓国政府が政治的負担となる日韓間の歴史認識問題の「管理」を放棄したことがある。そして、実際、今回の日本側の措置に直面しても、韓国政府はこれを解決する方向へと動いていない。そして、このまま韓国政府が関係改善への動きを見せなかった場合、その事が再び確認される事になる。

そして今回の措置と日本国内の世論の状況が示すのは、その様な韓国の状態と似た状態に、日本側もまた陥りつつあると言う事だ。日韓両国の政府も世論も、歴史認識問題の解決と「管理」を真剣に考えることなく、ただ自らの正しさを声高に叫び、相手を痛めつけることに喝采をあげる。そして、その陰で企業は自らのビジネスチャンスを失い、経済は更に縮小する。「管理」する者を失い、日韓関係はさらなる悪化へと向かう事になりそうだ。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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