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アングル:ロシア産ガス減克服した欧州、備蓄増や代替供給で安堵

2023年09月29日(金)11時31分

 欧州は、ロシア産天然ガスの供給が急減してから2度目の冬を迎える。今年はガス備蓄が高水準で、エネルギー価格も低下、新たな供給源も確保したため、昨年よりも安心できる状態だ。写真は未使用の「ノルドストリーム2」用のパイプ。2022年9月30日、ドイツのムクラン港で撮影(2023年 ロイター/Fabian Bimmer)

Kate Abnett Nora Buli Julia Payne

[ブリュッセル/オスロ 26日 ロイター] - 欧州は、ロシア産天然ガスの供給が急減してから2度目の冬を迎える。今年はガス備蓄が高水準で、エネルギー価格も低下、新たな供給源も確保したため、昨年よりも安心できる状態だ。

欧州は数十年にわたりロシアからの安価な天然ガス供給に頼ってきた。しかし1年前に海底パイプライン「ノルドストリーム」が原因不明の爆発に見舞われたことで、ロシア産ガスへの依存を再開する可能性はいよいよ低くなっている。

オックスフォード・インスティテュート・フォー・エナジー・スタディーズによると、ロシアがウクライナに侵攻する前の2021年、ノルドストリーム1は欧州の天然ガス輸入の15%を占めていた。

パイプラインが攻撃された当時、欧州の天然ガス価格はウクライナに侵攻前の3倍になっており、産業界はコスト抑制のために生産を減らしていた。

<ロシアに代わる供給減>

しかし現在、天然ガス価格は大幅に下がっている。欧州の天然ガス指標である「オランダTTF」期近物は1年前に180ユーロだったのが、今は40ユーロ前後で取引されている。

経済が脆弱でインフレ率が高いため、政策立案者や産業界は依然として天然ガス価格の変動リスクに敏感だが、ロシアがこの問題に拍車をかける可能性には対処済みだという。

欧州連合(EU)欧州委員会のシムソン委員(エネルギー担当)はロイターに対し、「われわれにとって最大のリスクは、ロシアがエネルギー市場を操作することだった。もうロシアにそんな力はない」と言い切った。ロシアに代わる天然ガスの輸送能力を急速に向上させたからだという。

EUのデータによると、ウクライナ侵攻以前、ロシアは毎年約1550億立方メートル(cm)の天然ガスを欧州に送っており、その大半がパイプライン経由だった。2022年には、EUのパイプラインによるガス輸入は600億cmにまで減少。今年は200億cmに減るとEUは予想している。

この不足に対処するため、EUは需要と供給の両面で対策を講じてきた。

供給面では、ロシアに代わってノルウェーがEU最大のパイプライン経由の天然ガス供給国となったのに加え、米国産を筆頭に液化天然ガス(LNG)の輸入も急増した。

ギリシャとポーランドでは、ロシア産以外の天然ガスを運ぶ新しいパイプラインが昨年開通した。フィンランド、ドイツ、イタリア、オランダはLNG輸入ターミナルを開設し、フランスとギリシャでも開設が計画されている。

ドイツは、新しいインフラに特に力を入れている。浮体式天然ガス貯蔵・再ガス化設備(FSRU)を搭載した船舶を3隻開設し、アナリストによると、ノルドストリーム 1経由で運んでいた分の50―60%相当を輸入できるようになった。

EUはまた、供給を補強するためにロシア産以外の天然ガスの共同購入を開始した。

加えて、危機発生時に近隣諸国と天然ガスを共有することを義務付ける規則の導入や、ガス貯蔵所を満杯にするよう義務付ける法律にも合意した。

ガス・インフラストラクチャー・ヨーロッパのデータによると、EU全域のガス貯蔵庫は現在95%満たされている。完全に満杯になれば、EUの冬のガス需要の約3分の1をカバーできるはずだ。

<産業界に打撃も>

エネルギー不足を回避できた大きな要因には、価格高騰による需要の落ち込みもある。

暖冬のおかげで暖房に使うエネルギーが比較的少なくて済んだ面もある。

一部のアナリストは、エネルギー使用量減少の代償として、欧州の産業活動が恒常的に縮小する可能性があると指摘している。

ICISの天然ガス分析部門責任者であるトム・マーゼックマンサー氏は「欧州はロシア産ガスをなんとか代替できた。だが実際には広範な経済活動を犠牲にしてのみ可能だったのだ」と語った。

ただ、天然ガス需要の減少の一部は、再生可能エネルギーへの積極的な移行によってもたらされている。

ウッド・マッケンジーによれば、欧州では今年、56ギガワット(GW)相当の再生可能エネルギー設備が新たに導入される見込みであり、これは天然ガス、約180億cmを代替できる量だ。

<逼迫する天然ガス供給>

国際エネルギー機関(IEA)の天然ガスアナリスト、ゲルゲリー・モルナール氏は、冬の到来を控え、欧州は「かなり安心できる状態」にあると述べた。

しかし、世界的に見ると天然ガス市場は異常に逼迫しており、例外的な天候や、さらなる供給ショックが起これば、欧州も価格高騰に直面するリスクがある。

EU、英国、ポーランド、オランダは来年選挙を控え、生活費危機が主要な争点になると予想されるだけに、価格が高騰すれば政治家はプレッシャーを感じるだろう。

ロイター
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