
村田 熊倉先生もご尽力されたユネスコの無形文化遺産に日本料理が登録されて以降、世界での日本料理店舗数は5万6000軒から18万7000軒に増え、農水産物の輸出額も4000億円から1兆6000億円に伸びています。
日本酒も無形文化遺産になり、料理と酒を通じて日本文化が世界に広がる動きが加速しています。
日本料理は「うまみ」を中心に構成された、他に例のない食文化です。脂質中心の西洋料理とは違い、油を使わずに満足感を得ることができます。懐石料理は65品目を使って1000キロカロリーほどと健康的で、今の世界の食のトレンドにも合っています。
将来、日本は人口減少と高齢化で内需が縮小し、食料自給率も危機的水準にあります。だからこそ日本料理を世界に広げ、生産を維持し、輸出を強化することが国益にかなう。文化を通じて、未来の日本を支える力になりたいと思っています。
佐伯 今、先生がおっしゃったように、文化の発信力は社会や経済、国際関係とも大きく結びついています。イギリスは「大英帝国のたそがれ」と言われながらも、ロックや王室といった文化遺産や歴史的遺産の力でその存在感を保っています。ですので、先生のお話は国際政治を考える上でも重要ですね。では、桑原先生はいかがでしょうか?

桑原 熊倉先生が私の論考「日本音楽の本質とは」に触れてくださいましたが、私にとって作曲とは「物事を考える方法」です。音とは何か、聞く私とは何か、人はどう生きるのか。
そうした根源的な問いを通じて考えることが、私にとっての作曲です。ですから、今回の論考は、作曲の過程で見えてきたものを日本語で確かめるための言語化の試みでもありました。
私は20代の頃から、自身の作曲を言葉で説明できる作曲家でありたいと思ってきました。「音楽は言語」とは言いますが、初めて聴く人に自作の曲を聴かせても、すぐに理解されるとは限りません。ですから自分の音楽を深く理解し、日本語で伝えることの重要性を感じています。
佐伯 桑原先生の音楽は浄瑠璃やお謡といった、現代の日本人がなかなか身近に聴かない、いわば「古い言葉」を意識して作曲されていますね。そうした言葉を西洋音楽の方法と結びつける試みは、きわめて独創的だと思います。先生の作品は、国内外でどのような反響があるのでしょうか。
桑原 時間感覚がヨーロッパの人とは異なると言われることがあります。私の楽譜は情報量が多く、細部まで徹底的に指定しています。どの演奏家が見ても私が意図する音の7割は再現できるように楽譜を作り、演奏家に手渡しています。
その上で、日本的な音の在り方とは何かを海外の人にも考えてほしいと思っています。五線譜は、英語と同じようにいわば共通語です。その共通語を用いながら日本人の感覚もつかんでほしい。それが伝わっているとも感じています。
佐伯 たとえば能のお囃子のひとつであるお笛で、楽譜に近いものは、西洋音楽の五線譜とは異なる「唱歌」です。それでも、間を再現する記述には限界があり、客観的にすべてが記譜されるものではありません。
演奏による個人差がかなり出てくる音楽の実践をどう言語化するかは興味深いテーマです。桑原先生は、今回の特集で気になった論考などおありでしたか?
