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義務教育に「マンガ」を入れたい!...里中満智子が語る、日本マンガにしかない「個性」とは?

2026年02月04日(水)11時00分
里中満智子(マンガ家)

今、アメリカでもヨーロッパでも、このような個性を活かす創り方で自分の作品を生み出したいと望む若者が増えている。画力が第一とされる欧米型のマンガ家の在り方よりも、物語やキャラクターを一から自分で創り出す方が充実感ややりがいを感じるのだろうと思う。

アメリカンコミックも「明るく強い勝者としてのヒーロー」だけでなく、悩み苦しむヒーローも描かれるようになった。子供たちや若い人たちが「自分も描いてみたい」と思ってくれるのは実に喜ばしい。

素晴らしい作品が増えてゆくのも嬉しいが、自分で設定を考えるスタイルゆえに、マンガを描いているうちに「他者への理解」を深める人が増えるのでは? という期待も膨らむ。

先にも述べたが、登場人物一人一人のセリフで物語が進行するのだから、マンガ作品を一本でも作ろうとすれば「何人もの立場の違う言い分」を、作者は考え出さなければいけない。

自分の考え──自分が正しいと思ったこと、これが正義だと思ったこと、こうすれば世の中が平和になると考えたこと、それらを一方的に述べるだけではドラマにならない。

反対の立場、言い分、考え方、感じ方、それらを背負った他の登場人物たちの気持ちになって、それらのキャラクターたちの言い分を考える──それができなければ物語は成立しない。

マンガを描くということは、「自分以外の人達の考え方を知り、理解し、またそれらに対しての自分の意見を見つめ直す」ということだ。

もしも義務教育のメニューの中に「マンガを創る」という授業があれば、否応なしに他者の立場を想像する機会となり、子供の視野を広げるのではないか──妄想と言われようと夢見ずにはいられない。

大学でマンガを教えるために教壇に立って20年以上──。プロとしてデビューできる若者は毎年何人も居る。

それはそれで嬉しいのだが、実は「人の立場を想像できる」という「マンガを創る上での不可欠のモノの見方」を身につけてほしいと心から願っている。このモノの見方は、自分も周囲も幸福にする生涯の力となるはずだ。

いつか──遠い未来かもしれないけれど「マンガを描くということは、多くの人々の立場や気持ちを汲み取り、人生と世界を豊かにする土台なのだ」と当たり前のように思われる日が来ると夢見ている。


里中満智子(Machiko Satonaka)
1948年大阪市生まれ。16歳の時『ピアの肖像』で第1回講談社新人漫画賞受賞、その後プロとして活動。代表作に『あした輝く』『アリエスの乙女たち』『海のオーロラ』『あすなろ坂』『狩人の星座』『天上の虹』(すべて講談社)など多数。公益社団法人日本漫画家協会理事長、一般社団法人マンガジャパン代表、大阪芸術大学キャラクター造形学科学科長・教授などをつとめる。


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  『アステイオン』103号
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