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「『国宝』どうでした?」問われ続けた専門家が語る...ヒットの鍵は『侍タイムスリッパー』との「共通点」

2026年02月18日(水)11時02分
古川諒太(東京大学大学院人文社会系研究科助教)

その時空に対するはたらきかけの結果、個々の作品や技芸が生み出されてきたのであり、結果としての作品や技芸を珍重しようとしたところで、その背後にあったエネルギーや魅力はなかなか見えてこない。

伝統芸能が運動してきた時空とはもはや異なる時空を生きている現代の我々が、その違いを自認しつつ、いかに生き生きとしたホンモノの運動として発信できるかどうかが大きな課題なのだろう。

千宗玄師の残された、「過去を知り、今を真摯に生き、責任を持って行動する」という言葉の重みを感じずにはいられない。

国立劇場の再整備問題

ちなみに冒頭で言及した『国宝』の撮影には、2023年10月に閉場した国立劇場のホンモノの座席や楽屋が使われた。

その国立劇場をめぐっては、映画公開より遡る2月初頭、ユニークベニューの一環として閉場中の舞台でファッションショーが行われたことに、厳しい批判の声も寄せられた。

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国立劇場は、戦後復興期から伝統芸能を文化財として保存・活用するための劇場として計画され、1966年11月に開場した。

それ以来、調査研究、技芸の記録保存、演者や技術者の養成、情報発信、教材開発など包括的な保存・活用事業とともに公演が行われてきた「伝統」の一大拠点、また演者にとっては偉大な先人からワザを受け継いで立つことを許される聖地でもあった。

その聖地が再開の見込みもないまま閉鎖された不透明感の中、業界にとっての部外者が、こともあろうに聖地を土足で踏み歩くイベントがだしぬけに開催されたとあっては、批判が殺到するのも無理はないことであった。

2025年12月初旬、再開場の見込みはさらに延期して2036年頃との発表がなされたが、その具体的見通しや方針は示されていないままである。

日本文化の多様性を発信する万博が華々しく開催され、『国宝』が空前の話題となった一方で、この延期の発表を含めた国立劇場の不在問題はさしたる話題にもならなかった。

透明な存在となりつつある伝統芸能が、現代の日本や世界に向けて発信しなくてはならない「伝統」とは何なのか、根底から考える岐路に立たされている。

古川諒太(Ryota Furukawa)
1996年生まれ。2025年10月に東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程修了、博士(文学)。専門は江戸文学と演劇。実践女子大学、東京藝術大学、学習院大学で非常勤講師をつとめ、伝統芸能関連の公演で司会解説なども行っている。「近世中後期の江戸歌舞伎における狂言作者の研究」でサントリー文化財団2023年度「若手研究者による社会と文化に関する個人研究助成(鳥井フェローシップ)」に採択。


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