国際刑事裁判所に関するローマ規程締結国会議で演説する赤根智子所長(2025年12月1日) James Petermeier/ZUMA Press Wire via Reuters Connect
ロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出し、一方でアメリカによる制裁に苦しむ国際機関がある。それが国際刑事裁判所(ICC)である。その所長が日本人の赤根智子氏であることは広く知られているが、125か国が加盟するICCでは、本当に多様な国籍の人たちが働いている。
ICCは国際的な刑事裁判所であるため、取り扱う地域や言語も様々であり、常用語の英語とフランス語に加え、ウクライナ語やロシア語、ヘブライ語やアラビア語などの資料が行き交い、多様なバックグラウンドを持つ法律家たちが日々法廷へ通勤している。
ICCは国際機関であるが、同時に犯罪を裁く裁判所でもある。多国籍かつ高度に専門的に法を取り扱う空間において、どのようにして共通の「正しさ」を見つけていくのか、というのは、法学者にとってとても興味深い問いである。
拙著『国際刑事手続法の原理──国際協働におけるプレミスの特定』は、ICCが法の認定の際に自覚的か無自覚的に考慮している、「プレミス」(=前提となっている事情や価値)を明らかにしたものである。
これをサントリー文化財団の海外出版助成金をいただいて英訳したのが、『The Premises of International Criminal Procedure: Identifying the Principles in International Collaboration』(Springer, 2025)である。
この本では、ICCの活動を規律する諸原則を、手続の時系列順(捜査→訴追(起訴)→身柄引渡→(欠席)裁判(の禁止)→被疑者の権利救済→証拠の審査→被害者賠償)で網羅的に検討し、類似の現象を国内で規律する法原則と比較しながら、その特徴を浮かび上がらせた。
「プレミス」というのは、国際法の法源の一つである「法の一般原則」の承認の際に考慮される事情や価値のことを指す概念であり、2023年に掲載された拙著論文「The New Recipe for a General Principle of Law: Premise Theory to "Fill in the Gaps"」(Asian Journal of International Law, 13 (1) (2023), pp. 169-187.)で発表した「プレミス理論」の中心となる概念である。
つぶさに刑事裁判を傍聴するという人でない限り法曹以外にはあまり知られていないかもしれないが、刑事裁判を行うためには大量の細かな手続法が必要になる。時に、規則がないために裁判官が裁量でその都度決定することもあるが、たいていの場合、過去に同様の事例があり、その先例が慣習となり、原則となることもある。
