グローバル化に伴いあらゆることが均質化に進む世界に対して警鐘が鳴らされるなか、この時代において日本の文化をどう「ひらいて」いくのかが問われる局面を迎えている。
だが、この問題を考えるには、発信する側と受け止める側の「あいだ」でどのような事態が生じているのかをみていく必要も出てくるだろう。
その接触面に目を向ければ、フレデリック・クレインス氏が挙げたサムライ文化の表象に伴う課題、すなわち「国際的な文化交流の新たな題材を見つけることよりも、身近な対象の奥深さを敬意をもって描くための洗練された方法論と協働体制の枠組み」を実現させる際に踏まえておくべき問題意識なども洗い出されるに違いない。
文化の渡守たちの現場に踏み込めば、長年継承されてきた伝統文化の場合、国際的な発信をする中で守らねばならぬものがある一方、時には譲歩せざるを得ないことがあることも浮かび上がるだろう。
そのせめぎ合いの中には、変容し続ける「文化」の姿とともに、日本音楽の本質を問うた桑原ゆう氏のいう「西洋化した生活様式の中でもなお、私たちの身体の奥深くに、変わらず響きつづける何か」も映し出されてくるかもしれない。
さらに付言すれば、「あいだ」や受け止める側に目を向けることで、大衆的な文化需要(或いは消費)と高級文化とがどう関わり合っているのか、あるいは水脈を別にするのか、その接触面の実相もみえてくるのではないだろうか。
だが、おそらく今回の特集は序章に過ぎず、今後、文化の受容・伝播の実態を取り上げた特集が近い将来に組まれることを楽しみに、待つことにしたい。
片岡真伊(Mai Kataoka)
総合研究大学院大学(国際日本研究)博士後期課程修了。博士(学術)。ロンドン大学SOASシニア・ティーチング・フェロー、東京大学東アジア藝文書院特任研究員を経て、2023年より現職。第22回(令和7年度)日本学術振興会賞受賞。専門分野は比較文学、日本近現代文学。近著『日本の小説の翻訳にまつわる特異な問題――文化の架橋者たちがみた「あいだ」』(中央公論新社、2024年)で、第46回サントリー学芸賞・第30回日本比較文学会賞を受賞。
『アステイオン』103号
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
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