アステイオン

日本文化

Matchaドリンク・manga・舞台版『Totoro』...ロンドンで見た「国際的な日本ブーム」の背景と「あいだ」

2026年01月28日(水)11時02分
片岡真伊(国際日本文化研究センター准教授)

そのような思いを巡らせ帰国した後、折しも『アステイオン』103号で特集「発信する日本文化」が組まれ、文化を発信する側の視界に分け入る機会を得た。

それを意識するにしろしないにしろ、文化の担い手たちは、メディアや技術の急速な変容に伴い、もはや国際社会とは無縁ではいられない。こうした状況下で日本を磁場として文化を育み、伝え、継ぐ者たちは何を考え、どう実践しているのか。

特集を読み進める中、印象残ったのは、国外の視点を介して改めて自覚される日本の伝統文化の性質であった。

千玄室氏は、「「お菓子をどうぞ」と言って、その間にお茶を点てる」際の、「静けさと間合いの中」に宿る「思いやり」、そして、その「「間」」にこそ、コーヒー文化にはない「日本文化の核心」があるという。

この確信は、米コンサルタントの友人ジェイ・エイブラハム氏による「我が国アメリカは、残念ながらこれだけの大国になっても『間隔』がない」という洞察の話のうえに描き出される。

また、池坊専好氏による海外における「美しい花そのものを愛でる文化」と日本の「いけばな」との対比には、その根本的な違い、すなわち前者が「完成した状態」を希求するのに対し、「命はどんな姿であっても美しい」という考えに根ざし雨露風雪に耐えた草木や虫食い葉、枯れゆく葉の命を愛で、生かす態度の違いが映し出される。

かつて、自分たちの作品が国外で翻訳される可能性に自覚的になった川端康成や谷崎潤一郎たちは、日本の小説にみる日本的特質や日本語という文化的基盤があるからこそ表せることを掴もうとした。

異文化・異言語を通過して初めて照らし出されるこうした特質にこそ、日本という磁場に根ざすからこそ描き、育むことのできる世界や新たな可能性が宿るのかもしれない。

加えて、本特集を読むと、今日ならではの文化発信をめぐるアクチュアルな問題をも突きつけられる。かつての日本文化の発信は、国際的な「認知」を目指すことに重きが置かれてきた。

だが本特集では、人口減少に伴う経済力の低下や人材不足、国内市場規模の縮小に直面する中、日本の文化を生き存えさせるために、世界にひらいていかざるを得ない実情が浮き彫りとなる。

日本料理の発展を目指した「日本料理アカデミー」を設立した村田吉弘氏の「日本料理を世界の料理にしなければ、将来、日本の食は危うい」という危機感、こうした意識に裏打ちされた和食の無形文化遺産登録をはじめとするさまざまな取り組みや積極的な国外発信の必要性は、特集内の至るところで触れられているが、これは分野を問わず、文化発信の担い手たちが今日直面する大きな課題の一つであろう。

PAGE TOP