2013年には「和食:日本人の伝統的な食文化」も無形文化遺産に登録された。登録基準についての議論もあろうが、芸術から食生活にいたるまで、日本の文化が世界的にも広く注目され、評価されている事実は、素直に喜ぶべきであろう。
茶道や書道関係の品物も、日本文化全体への関心や、おりからの海外観光客の増加に伴い、品薄になるほどの人気という。
国内では縮小傾向にみえる伝統文化関係の市場も、国際的視点に立てば、新たな可能性がみえてくる。過剰なインバウンドの弊害にも留意する必要はあるが、文化は狭い意味での文化活動にとどまるものではなく、経済の活性化にも寄与する。
海外の日本ファンも、むしろ日本人よりも日本文化に詳しい人も多い。日本文化は日本固有のものではない。むしろ、積極的に海をこえて発信することで、未来への継承の希望が広がる。日本文化は現在でも国境をこえ続けている。いや、そうあらねばならない。
70年代とはうってかわった社会、経済状況、世相のなかで開かれた2025年の万国博覧会。だが、日本文化を発信する機会としての位置づけはかわらない。
伝統芸能や日本文化に関わる様々な催しは、パビリオン内外で活発で、観客と一緒に謡を謡うなど、古典芸能に親しむ参加型の催しも実施されていた。私自身もささやかながら、お茶と舞踏をテーマとするイベントで、その末席に連なった。
私事で恐縮だが、70年万博開催のおり、北摂在住であった私は、万博を何度も訪れ、お祭り広場の催事にも出演した。2つの万博を観覧者として、また参加者として比較する機会に恵まれた経験を、本誌の特集を通じて、微力ながら社会に還元したいと願った。
関西、特に京都については、観光地としてのブランド力も強く、それに乗じて、にわかに「京○○」などとうたい始める動きもありがちだ。だが、流行に便乗する浅薄な姿勢は、社会的にも研究上もいただけない。にわか関西人、にわか京都人による日本文化論ではなく、ここでは、上方に根差した方々による、地に足のついた論考を揃えることを心掛けた。
日本が初めて参加した1867年のパリ万博においては、当時の江戸幕府、薩摩藩、佐賀藩がそれぞれに文物などを紹介した。そこまで遡れば150年以上。「発信」という表現はSNS的な用語で、それこそ流行めくが、あえて表題とすることで、時代を感じていただく一助とした。
この特集が、いつかまた万博を目にするかもしれない未来の読者も含め、日本文化の歴史と可能性を考えていただく手がかりとなれば幸いである。
佐伯順子(Junko Saeki)
東京都生まれ。同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻教授。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。国際日本文化研究センター客員助教授等を経て、現職。同志社大学京都と茶文化研究センター長もつとめる。専門は比較文化。著書に『「色」と「愛」の比較文化史』(岩波書店、サントリー学芸賞)など多数。
『アステイオン』103号
公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
CEメディアハウス[刊]
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