アステイオン

日本文化

「日本文化」は世界に何を伝え、どこへ向かうのか...「伝統か、ポップか」を超えた現在地

2025年11月14日(金)11時00分
佐伯順子(同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻教授)
大阪・関西万博 ミャクミャク キティ

Kazuki Oishi/Sipa USA via Reuters Connect


<日本文化の多層性とその国際的な広がりを、万博イヤーに再考する。『アステイオン』103号の特集「発信する日本文化──伝統と可能性」の巻頭言より転載>


1970年、日本の高度成長期のさなかに、大阪の千里丘陵で万国博覧会が開催された。右肩上がりの経済成長のなか、人間社会の「進歩」が信じられていた昭和の万博。

以来、55年。再び大阪・関西の地で万国博覧会が開催されるにあたり、あらためて、世界に発信する日本文化の魅力とは何かを考察したのが、今号『アステイオン』103号の特集である。国内外の人々が一定期間一堂に会して交流する万国博覧会は、日本文化を海外に伝える絶好の機会に他ならないからである。

各論に入る前に、そもそも「日本文化」とは何ぞやと問わねばならない。

既に本誌の特集「共有される日本文化」(2014年、81号)において、「日本文化」は「日本」の専有物ではなく、複数の地域と関わりながら発展、創造されてきた、つまり、存在するのは個々の作者、作品であり、「日本文化」を全体として語ることに現実性があるのか否か、との指摘があった(巻頭言)。もう10年ほど前のことである。

今号はそのレガシーをふまえつつ、大阪・関西の地で博覧会が開催される節目に、国際社会における日本の現在地について、文化発信の視点から問い直し、記録に残しておきたいという意図がある。

関西という地域は、茶道、華道、能楽など、いわゆる「伝統文化」の歴史的な集積地であり、実際に家元や伝統芸能の継承者の方が活躍されている本拠地だからである。

今号で対談をした伝統文化関係の先生方も、地元で家元を守りつつ、海外への普及にも尽力され、過去、現在の国際博覧会にも深く関わられている。

本誌では、こうした先生方に加えて、作曲や料理などを通じて、芸術文化、生活文化に関わる実践者の方々の、当事者ならではのお考えをお伝えしたかった。とりわけ千玄室先生におかれては、本誌にご生前の貴重なお言葉を残していただいた。

「日本」という概念のみならず、「伝統」「古典」という概念と実態についても、不断の問い直しが必要である。日本の「古典芸能」や「伝統文化」と認識されているものは、歴史的に構築されたものであり、時代の経過に応じて変容するからである。

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