1918年のミシガン大学における男子学生による軍事教練 (米国国立公文書館所蔵、National Archives Identifier: 26429388)
アメリカ合衆国(以下、米国)軍が大規模な海外展開を始めたのは、第二次世界大戦期以降である。20世紀前半までの米軍は、ヨーロッパの大国と比べると、国力の割に小規模だった。
その理由は、米国の歴史に見出すことができる。英国による圧政への反発から建国された国だという自負から、政府に大きな権限を与えたり大規模な常備軍を置いたりすることには社会の反発が強かった。
そのため、常備軍の規模は抑えつつ、市民が平時に軍事訓練を受け非常時に兵役に就く、いわば伸縮可能な軍隊組織が、米国の軍隊の理想形だという考えが、長く主流だったのである。
こうした背景を一因として、米国史研究では、米国が戦時体制下にあった時期にのみ「軍事的なもの・こと」が米国社会に影響を与えた、という理解が一般的である。
例えば、20世紀前半では、1917年から1918年までと1939/1941年から1945年までに関する記述の中でのみ戦争や米軍が登場する、といった具合である。
その結果、米軍が米国外の諸地域に与えた影響に関する研究が盛んに行われてきたのに対し、米軍と米国社会との間の長期的関係性に関する歴史研究は多くない。
しかし、「戦時」ではなかった時期における米国の民間社会と軍隊との関連を示す例は、実は多く存在する。写真にある、予備役将校訓練部隊(Reserve Officers' Training Corps、通称ROTC)はその一例である。
ROTCは、米国の一部の大学に置かれた軍事教練課程であり、欧州での第一次世界大戦勃発を受けて米国がとった国防強化策の一つとして1916年に創設された。しかし、戦後も廃止されずに現在まで存続している。
その内容は時期により異なるが、当初は、男子学生が基礎的な軍事技術を学び、そのうち4年間の課程を修了しその他要件を満たした者には、米陸軍の予備役将校任命の機会が与えられるというものであった。
1960年代初頭までは、ROTCの2年間受講を男子学生の卒業要件とした大学があったほか、宗教上や良心上の理由から受講を拒否した学生が、そうした大学から停学・退学処分となる例もあった。
