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ジャーナリズム

「嫌な世の中です」...誹謗中傷が奪った、ある地方議員の命から問う「SNS時代のジャーナリズム」

2025年07月23日(水)11時00分
磨井慎吾(『中央公論』編集部)

特集外ではあるが、トイアンナ氏の「誠実な引きこもりと、辻立ちする扇動屋」は、そうした問題意識で書かれたユニークなエッセイである。

話の中心は、有料で記事を売ることができるブログサービス「note」だ。取材費を紙の本の印税で回収する伝統的な専業ジャーナリストのビジネスモデルはもはや厳しいが、「note」を利用すれば物書きが個人で食べていくだけの収入を得ることはできる。

ジャーナリズム論としてはあまり目が向けられない下部構造に着目した内容で、興味深かった。

というのも、現場記者としては、従来型の組織ジャーナリズムが維持困難になりつつある要因について、何よりも経営的問題が大きいと感じていたからだ。

苦境に陥った「オールドメディア」の少なからぬ部分は、多少なりとも収益を改善するべく、無数のネット媒体と肩を並べてページビュー(PV)獲得競争に突入しているが、人件費なども考慮すると成果は概して芳しくない。

ありていに言えば、課金モデルにせよ広告モデルにせよ、日本のネット空間において「報道(ジャーナリズム)」のみでマスメディアがマネタイズするのは、金銭的利害に直結する経済ニュースを除けば現状不可能であり、費用対効果の観点から、多くのメディアが「煽り記事」「コタツ記事」の類を量産せざるを得なくなっているのが実情である。

こうした「貧すれば鈍する」的状況が、「オールドメディア」への信頼を損なう方向に作用しているのは間違いない。それはSNSで蔓延する陰謀論を押しとどめるどころか、むしろ促進する役割すら果たしているだろう。

◇ ◇ ◇

マスメディアがマスを保てなくなりつつある中で、ジャーナリズムは動揺している。

だが、公益を目的として粘り強く事実を追求するジャーナリズムが力を失ってしまえば、扇動と分断に覆われた「嫌な世の中」になるほかない。どのような形であれば、持続可能なジャーナリズムが成立しうるのか。

本特集は、ジャーナリズムの「思想」と「科学」に焦点を合わせることで、実証科学としてジャーナリズムを鍛え直すことを狙い、成功を収めた。

未来の号で特集「アカデミック・ジャーナリズム3」が組まれることがあれば、今度はジャーナリズムを「経営」の角度から分析する論考も読んでみたい。


磨井慎吾(Shingo Usui)
1978年熊本市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。2002年、産経新聞社入社。福井支局、姫路支局、整理部を経て、東京本社文化部で15年にわたり歴史、論壇などを中心に取材。2016年から「論壇時評」欄担当。2024年、中央公論新社入社。現在は月刊『中央公論』の編集に携わっている。


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