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日本社会

移住願望はシニア層から若者へ──首都圏の人は「地方」に何を求めるのか

2023年03月15日(水)08時13分
多賀谷克彦(元朝日新聞編集委員)
しかりべつ湖コタン

イグルーが並ぶ「しかりべつ湖コタン」(2012年) 提供:サントリー文化財団


<かつて移住といえば、残りの人生を自然豊かな地方でというシニア層が圧倒的だった。しかし、今は若い世代の地方への目線に変化が起きている>


2020年10月から1年半、コロナ禍の東京で単身生活を送った。繰り返し発動される緊急事態宣言下、飲食店の閉店時間が早まり、夜の台所に立つ日が続いた。週末は、一週間分の食材を求め、買い出しに出た。墨東に住んでいたので、門前仲町、たまに日本橋、銀座にも足を延ばした。かつては訪日外国人客でごったがえした大型店にかつての賑わいはなかった。

そのなかで、人影の濃い店を見つけた。日本橋、八重洲、銀座にある地方自治体のアンテナショップ、いわゆる物産館である。調べてみると、ざっと30店はある。たまに足を運んだのが、三越本店の隣、「日本橋とやま館」である。

上京早々に味わった地酒バーは閉鎖されたが、富山名産のホタルイカの燻製、しろえびの浜干しなど、あれもこれもと、ついつい手が伸びた。

来店客はシニア層に限らない。20代と思える若い世代も少なくない。人々はアンテナショップに何を求めているのか。長期にわたって移動を制限され、抑えきれない旅情を癒すためか。全国チェーンのスーパーではお目にかかれない品々を求めてだろうか。いずれにしても、世代を超え、首都圏にはない「地方」に何かを求めている。

その光景が頭から離れずにいたところに、次のような調査結果が目に止まった。内閣府が2020年5月から5回(~2022年6月)実施した「コロナ禍の生活意識、行動の変化」という調査だ。そのなかに、首都圏在住者の地方移住への関心を示すデータがあった。全年齢では「関心がある」と答えたのは34.2%だが、20代では45.2%に跳ね上がる。

その理由は「人口密度が低く自然が豊かな環境が魅力」という回答が3割を占め、最も多かった。それに次ぎ、「テレワークによって地方でも働ける」が25%程度あった。そこから読み取れるのは、コロナ禍による若い世代の地方への目線の変化だ。

ほかに興味深いデータもあった。東京23区内の就業者のテレワーク経験者は5割を超え、昨年6月「家族と過ごす時間が増えた」と答えたうちの9割が「その時間を維持したい」という。しかも子育ての時間が増えたという男性は35%に上った。テレワークをきっかけに、若い世代が家族と共有する時間を大事にしたいという意識の高まりがうかがえる。

もう少し時間を遡ったデータもある。東京・有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」の利用者の推移をみると、2008年は60~70代が4割を占め、20~30代は16%に過ぎなかった。だが、今では現役世代が中心となり、22年には60代以上は10.5%にとどまり、40代以下が約7割となった。

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