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経済学

「勉強だけ出来ても役に立たない」は負け惜しみではなかった──非認知能力の重要性(上)

2022年06月20日(月)08時08分
中室牧子(慶應義塾大学総合政策学部教授/東京財団政策研究所主幹研究員)

一方、大学の賃金プレミアムは、「大学による」との見方もある。州内トップの大規模公立大学にギリギリ合格した人は、トップ公立大学にはギリギリ不合格となり他の公立大学に進学した人よりも、28歳~33歳時点の収入が20%も高いことを発見した研究がある[Hoekstra, 2009]。

また、米テキサス州内の大学の卒業生、約10万人のデータを用いた研究では、州内のトップ公立大学であるテキサス大学オースティン校、テキサスA&M大学カレッジステーション校と、それ以外の4年制公立大学を比較している。

この結果、他の公立大学の卒業生よりもテキサス大学オースティン校では11.5%、テキサスA&M大学カレッジステーション校では21.7%も23~31歳時点の収入が高いということだ[Andrews, Li & Lovenheim, 2016]。

「専攻による」との見方もある[Hastings, Neilson & Zimmerman, 2013; Andrews, Li & Lovenheim, 2016]。ノルウェーの行政データを用いた研究でも、大学の偏差値よりも大学での専攻が与える影響の方が大きいと指摘する[Kirkeboen et al, 2016]。

この研究においても、やはり偏差値の高い大学に行くことが収入に与える平均的な効果は殆どないと結論づけている。そして「どの大学に進学するか」よりも、「どの学部に進学するか」の方が重要であることが示されている。医学、法学、経営学などは、文学、社会科学、教育学などよりも有利になっている。

具体的には、同程度の偏差値の大学の文学部に行くか理工学部に行くか迷った結果、理工学部に行くことを決断した学生の場合、キャリアの初期における給与は文学部に行った場合の3倍にも上ると推計されている。つまり、「偏差値の高い大学へ行かせておけば安心だ」と思う保護者は多いかもしれないが、偏差値の高い大学へ進学することは「誰にとっても最良の選択」なわけではないのだ。

偏差値、学力テスト、IQテストなどで測ることができる能力のことを「認知能力」と呼ぶ。私たちが偏差値に強い信頼を置くのは、偏差値が高いと、学歴や収入の面で将来、有利になると考えているからだと思う。しかし、学力テストで計測される認知能力は、学校を卒業した後の人生の成功のほんの一部を説明することしかできないことを多くの研究が明らかにしている。

例えば、ある研究によれば、個人の学力テストの変動は、学校を卒業した後の個人の収入の変動の17%しか説明することができていない[Bound, Brown, and Mathiowetz, 2001]し、別の研究では、IQテストの変動に至っては収入の変動のたった7%しか説明できないのだそうだ[Heckman and Kautz, 2012]。

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