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経済学

「勉強だけ出来ても役に立たない」は負け惜しみではなかった──非認知能力の重要性(上)

2022年06月20日(月)08時08分
中室牧子(慶應義塾大学総合政策学部教授/東京財団政策研究所主幹研究員)

私たちは時々、「勉強だけ出来ても役に立たない」と言ったりするが、一見負け惜しみのようなこのセリフが正しいことは多くの研究によって証明されている。

日本経済団体連合会(経団連)が実施している「新卒採用に関するアンケート調査」(2018年度)で、「選考にあたって特に重視した点」を見てみても、1位はコミュニケーション能力(82.4%)で、以下主体性(64.3%)、チャレンジ精神(48.9%)、協調性(47.0%)、誠実性(43.4%)と続くのに対し、学業成績(4.4%)は殆ど重視されていない。

実は、海外の企業にも同様の傾向があるから[Bowles, Gintis and Osborne, 2001]、日本の企業だけが特別だというわけではないのである。

※第2回 : 「協調性」は日本人男性のみに通用するという研究結果──非認知能力の重要性(中) に続く

[注]
(*1)シグナリング理論に対する反証もある。コロンビアのロスアンデス大学では、2006年に経済学と経営学の卒業に必要な単位数をそれぞれ20%と14%削減した。この結果、卒業生の収入は、経済学と経営学でそれぞれ16%と13%低下したことが明らかになった。もしも、シグナリング理論が成り立つのであれば、単位数は収入に影響を与えないはずだ。しかし、単位数を削減した後の卒業生は、有名企業の採用試験で内定を得る確率が下がっており、結果として収入が低下していることが示された[Arteaga, 2018]。また、出身大学の偏差値と収入の相関は、社会人としての経験年数とともに強くなっていくことを示した研究もある[MacLeod et al, 2017]。これらの研究は、いずれも、大学における教育が労働者の能力をあらわす「シグナル」以上の意味を持つ可能性を示唆している。

中室牧子(Makiko Nakamuro)
1975年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。コロンビア大学でPh.D.(MPA)取得。日本銀行、慶應義塾大学総合政策学部准教授などを経て、現職。専門は教育経済学。著書に『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トウェンティワン)、『「原因と結果」の経済学』(共著、ダイヤモンド)などがある。東京財団政策研究所研究主幹、産業構造審議会、政府の諮問会議で有識者委員も務めている。



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  『アステイオン 96
 特集「経済学の常識、世間の常識」
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