アステイオン

欧州

NATOを覚醒させたウクライナ侵攻

2022年06月10日(金)08時07分
広瀬佳一(防衛大学校総合安全保障研究科教授)

このうちスウェーデン、フィンランドは近年、特別のパートナーとして、集団防衛シナリオに基づくNATOの軍事演習への参加や、平時・緊急時の「受け入れ国支援」をNATOと取り決めるなど協力を強化していたが、ここにきてこれら非同盟国のNATO加盟問題さえ浮上してきている[編集部注:スウェーデンとフィンランドは、5月18日に正式にNATO加盟申請した]。

今年6月にはマドリッドでNATO首脳会議が開催され、2010年以来の改定となる新しい戦略概念が発表される。そこでの大きな焦点は、実はウクライナ侵攻前までは中国であった。2019年12月のNATO共同宣言に、「課題と挑戦」という表現で中国がはじめて登場した。その後、バイデン政権の成立とともに中国脅威論が前面に出てきた。ヨーロッパにとって軍事的脅威ではない中国に対して、NATOとしてどのように向き合うのかが問われるはずであった。

これが完全にひっくり返ってしまった。ロシアを戦略的パートナーとして位置づけていた2010年戦略概念の気運は一転して、新しい戦略概念では、集団防衛の態勢強化や近代化が強く打ち出されることになるだろう。

プーチンは「根源的な脅威」をみずから呼び起こし、覚醒させてしまったのである。


広瀬佳一(Yoshikazu Hirose)
1960年生まれ。筑波大学大学院社会科学研究科博士課程満期退学(法学博士)。専門はヨーロッパ国際政治、ヨーロッパ安全保障。編著書に『現代ヨーロッパの安全保障』、『冷戦後のNATO』(ともにミネルヴァ書房)、『ユーラシアの紛争と平和』(明石書店)、『平和構築へのアプローチ』(吉田書店)など。



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