アステイオン

アメリカ

新しい「アメリカの世紀」? Vol. 093 座談会

2021年02月03日(水)
小濵祥子+田所昌幸+待鳥聡史 構成:藤山一樹(日本学術振興会特別研究員PD)

待鳥 香港の問題がそうした機能を果たす可能性はありますよね。

田所 それもありえるし、より決定的なのは台湾での有事ですね。いずれにせよ、この問題は構造的な要因で決まるというより、あることが何かの拍子で起こった結果、アメリカ内部に不可逆的な変化が生じた、という展開になるように思います。

小濵 そうすると、中国の対外行動によって重大なイベントが起きたとしても、アメリカの対応次第では異なる展開もありえるということでしょうか。

田所 ありえますね。ただ現在の米中関係が体制間競争の性格を強めている点を考えると、何か大きなイベントが起こった時に、アメリカ国民がどっと同じ方向へ動く可能性も十分にあると私は見ています。なにせアメリカは理念の国ですから。南北戦争が自由貿易と保護主義の対立のみで始まった内戦なら、あれほど多くの戦死者を出すことはなかったはずです。

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今号の読みどころ

田所 ここでお二人に、今回の『アステイオン』の中で特におすすめの論文を挙げていただきたいのですが。

小濵 今のアメリカを理解するにあたって非常に説得力があると感じたのは、同門の先輩にあたる金成隆一さんの論考「真ん中が抜け落ちた国で」ですね。もう一つ、リベラル知識人の模索している様がはっきりと表れたマーク・リラさんの論考「液状化社会」にも、思考を大いに刺激されました。この論稿は経済・社会の「液状化」に着目していて、政府や国家の話はあまり出てこないのですが、だからこそ現在のリベラルが国家にどこまで期待しているのかについて考えさせられました。近著の『リベラル再生宣言』では民主党の再生への道筋を示したリラさんが、ここではむしろポスト・トランプ時代の共和党の動きこそ鍵だと論じているのも興味深い点でした。

待鳥 責任編集者として一つを選ぶのは難しいのですが、あえてと言われれば、一番面白く読んだのは石川さんの論考ですね。ヘゲモニーを容易に手放そうとしないアメリカの特質を建国の経緯から読み解くというのは、やはり歴史を地道に研究してこられた方でないとできません。建国期というのは何しろダイナミックな時代で、先行研究の蓄積も大変に厚く、学問としての何かを言えるようになるまでにおそろしく手間がかかるはずです。アメリカ政治史に精通されている石川さんにしか書けないものを書いていただきました。

ただ当然ながら他の論文も粒揃いですので、読者の皆さんには、3回でも5回でもくり返し読んでいただくのが一番よいということを申し上げておきます(笑)。

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