アサンジ被告の暴露がグローバルな「公共の利益」に沿っているのは明らかで、罪に問えば米憲法修正1条の「表現の自由」に違反する恐れがある。しかし米国で1917年にスパイ活動法が制定されてから国家安全保障に関する報道が罪に問われたことは一度もないのだ。

4年前の米大統領選で民主党候補ヒラリー・クリントン元国務長官の電子メールを暴露したウィキリークスを「愛している」とまで言ったドナルド・トランプ大統領は、恩赦で釈放されていた元米陸軍上等兵を再拘束し、アサンジ被告の捜査を再開した。

英非営利報道組織「調査報道局」の初代主筆としてウィキリークスの駐イラク米軍の機密文書を扱ったジャーナリストのイアン・オバートン氏は筆者にこう語る。

「アサンジ氏がターゲットにされるのなら、どうしてウィキリークスと協力したメディアの編集長が狙われないで済まされるのか。最終的にはジャーナリズムそのものが問われることになる」

引き渡し命令の取り下げ気配なし

そして英国では米国との間で結ばれている犯罪人引き渡し条約は「不平等条約だ」(英最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首)という批判が渦巻いている。

昨年8月、19歳の英国人青年ハリー・ダンさんは昨年8月、単車に乗車中、逆走してきた車と衝突して死亡した。車を運転していたのは米中央情報局(CIA)の女性情報員。女性は外交特権を行使して警察の取り調べを逃れ、米空軍機で米国に帰国してしまった。

この日記者会見したオーストラリアのジョージ・クリステンセン下院議員は「ボリス・ジョンソン英首相が、審理の始まる前に引き渡し命令を取り下げることを望む。私はトランプ大統領とジョンソン首相の大ファンだが、私自身、表現の自由により重きを置いている」と言う。

kimura20200219090403.jpg
ジョージ・クリステンセン豪下院議員(筆者撮影)

クリステンセン氏は「ジョンソン首相は米国への身柄引き渡し条約は英国にとって不平等だと語っている」と指摘する。確かにジョンソン首相は条約について米国と再交渉することを模索することを示唆しているが、アサンジ被告の引き渡し命令を取り下げる気配は今のところない。

駐留米軍や外交公電がウィキリークスで公開されていなかったら、イラクやアフガニスタンの戦争の真実をうかがい知ることはできなかった。「表現の自由」が認められていなかったらドローン(無人航空機)攻撃による巻き添え被害の実態も決して表には出てこなかったはずだ。

20200225issue_cover150.jpg
2020年2月25日号(2月18日発売)は「上級国民論」特集。ズルする奴らが罪を免れている――。ネットを越え渦巻く人々の怒り。「上級国民」の正体とは? 「特権階級」は本当にいるのか?
※画像をクリックするとアマゾンに飛びます