アメリカ人の姑は、「来客があるの」と私が口にすると、かならず「何料理を作るの?」とたずねてくる。そこで、「和食のバリエーション」とか「タイ風カレー」とか答えると、「アメリカ料理は作らないの?」と、返ってくる。そこには、「アメリカ暮らしが長いのに、なぜ頑固にアメリカ料理を拒否するの?」という、ささやかな批判も交じっている。
30年近く似たようなやり取りを繰り返して飽きてきたので、一度「アメリカ料理って、どういうものですか?」と尋ねてみた。
すると、彼女は「scalloped potatoesとか......」と言う。でも、それは、フランスからやってきたポテトグラタンだ。そう指摘すると、「アメリカ料理のはずよ。私は子どもの頃から食べていたもの」と譲らない。どうやら姑は、ローストビーフやチキンスープも「アメリカ料理」と信じているようだ。
では「アメリカ料理」とは何だろうか?
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思いつくのは、ピザ、ホットドッグ、ハンバーガー、チリコンカルネといったファストフードだが、これらも、アメリカへ来た移民が母国の味を作り変えたものだ。私の姑はアメリカ中西部のオハイオ州出身で、彼女の両親はこの地域に多いオランダ系、ドイツ系、イギリス系移民の子孫だ。だから、これらの国の「味覚」が姑にとっては「アメリカ料理」なのだろう。
Lutefiskとは、干して発酵させた白身の魚を灰汁(あく)に漬けて柔らかくしたもので、魚はゼリー状になり強い悪臭を放つようになる。日本のくさや、韓国のホンオフェなど、どの国にも、外国人が「そんなもの食べられるの?」と驚愕する国民食があるが、Lutefiskもそのひとつだ。悪臭も、慣れている人には食欲をそそる香りになるかもしれないが、作るときに染みこむ魚の臭いが好きな人はいない。だから、12歳のときからLutefiskを作っていたLarsは、まったく女性にモテず、立派なシェフになることだけを夢見て大人になった。
やがて念願のシェフとなり、遅ればせながらも初めて愛する女性と出会って幸せを掴んだLarsだが、子育てよりソムリエとして活躍したい妻に捨てられてしまう。乳児の娘とふたりきりになったLarsは、溺愛する娘のEvaに味の英才教育を始める。