子煩悩なLarsの愛情に包まれたEvaの人生は、たとえ父子家庭であっても素晴らしいものになりそうだ。だが、そんな読者の期待を裏切る災難が訪れる。孤児になったEvaは親戚に引き取られるが、そこにも不運はつきまとう。

 Evaのように恵まれない境遇の人は、アメリカだけでなく、世界のどこにでも溢れているだろう。多くの人は、逆境と戦うことに疲れて、人生を諦めてしまう。Evaを引き取った叔父がそうだった。

 けれども、Evaは人に裏切られても、不運に見舞われても、諦めずに立ち上がる雑草の強さを持っていた。人生における彼女の最大の武器は、微妙なフレーバーを識別できる天才的な味覚と料理への情熱だ。それは赤ん坊のうちから「本物の味」を教えることにこだわった父Larsの娘への最高の贈り物だったのだ。

 Evaは、人生の始まりに父から受け取った贈り物を活かし、天才シェフとして充実した人生を送るのだが、そのEvaの視点がまったく書かれていないのが、この小説の魅力だ。

 ナレーターが三人称でEvaの人生を綴る、というありふれた手法でもない。Evaの父、高校時代のボーイフレンド、年上の従姉、恋のライバル......といった彼女に関わった人々の視線で、思い出が短編のように繋がっている。だから、読者はひとりの思い出を読み終わった後、次にEvaに会うのが待ちきれなくなる。そして、再会したときには、Evaは以前とは異なる女性に成長している。その間に、彼女が何を考え、どんな選択をしたのかは、想像するだけで知ることはできない。そのために、Evaの人生があたかも伝説のように感じられてくる。

 もうひとつの魅力は、小説で描かれるアメリカ中西部に引き継がれた北欧の食文化と、レストラン業界の内情だ。

 アメリカの食文化やレストラン業界というと、前にご紹介した『Food Whore』のようにニューヨークのマンハッタンの話題が多い。イタリア移民が多いボストンではイタリア料理が、フランス系カナダ人移民が多い南部ニューオリンズではケイジャン料理が有名だ。ワイナリーがあるカリフォルニアにも有名なレストランがいくつもある。だが中西部となると、思いつくのは、シカゴスタイルの分厚いピザくらいだ。中西部に住む移民の母国の味が余りにシンプルで、イタリア系やフランス系の味に比べると地味過ぎるからだろう。

 でも、『Kitchens of the Great Midwest』を読んでいると、そのシンプルさが食の真髄だという気になり、「中西部にも美味しいものがありそうだ」と思えてくる。その意味でも、この小説はとても興味深く、読者を飽きさせない。それでもLutefiskは食べたくはならないが。

 昨年後半、ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ多くのメディアで話題となった寓話的な雰囲気を持つ現代小説だ。ちょっと風変わりな、けれども読みやすい文芸小説を探している方にはおすすめの一冊。