イギリスはいくつかの理由によって、EUより迅速かつ効果的に動けた。まず、EUは相変わらずの官僚主義ぶりを見せつけたから、英当局のほうが早くワクチンを承認できたということになる。まっとうな理由で(ただし緊急事態ではない時期に)整備されてきたプロセスを見直すことよりも、手続きが遅れることのほうがはるかに大きな公衆衛生上の危機をもたらすだろう、という「常識」を、イギリスは採用した。

EUは当初、イギリスが承認プロセスを迅速化したというより「手抜きをした」と言わんばかりだった。そして今、ワクチンの確保で後れを取ったEUは、アストラゼネカがEUを裏切ったかのような言い方をし、イギリスへの他社製ワクチン輸出禁止の脅しまでちらつかせて、批判をそらすのに必死だ。

欧州委員会がその能力を超えた責任を引き受けている状況下でも、EUは一枚岩として行動した。EUのエリートは、問題を検討したり解決策を探ったりする際、この状況をいかにして「欧州プロジェクト」──EU本部への権力集中と加盟国の統合強化──につなげられるか、とある程度計算せずにはいられないようだ。その目的に前進があれば何であれ失敗とはみなされず、だからこそ破滅的な単一通貨ユーロは、南欧の国々に経済的打撃を与え続けているにもかかわらず、EU本部からは「歴史的成果」と見なされている。

同様に、EUが加盟各国からワクチン計画の主導権を取り上げて独占したことは、EUの優れた調整力の証しだ、だからこそ世界から「欧州統合」は前進していると見なされるだろう、ということになっている。実態は、規制の長期化とさらなる死者増加を招いているにもかかわらず。

もしイギリスが今でもEUに加盟していたら、「単独行動」でやるよりも28カ国の集団でやるほうが購買力でも交渉力でも優れているのは当然なように思われるから、EUのワクチン計画に従っていたことだろう。小さな国が独自に動くほうがうまくいくなんて、知る由もなかった。そして、僕の暫定予定日も3月とはいかなかっただろう。

<2021年2月9日号掲載>

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